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第33話 最強賢者、痕跡を発見する



それから数十分後。

俺はネムとミアと共に、魔物大発生の予想地点付近へとやってきていた。

予想地点とはいっても範囲は1キロ四方近くにも及ぶので、調べようとするとかなり広大なのだが。


「ミアとネムは魔力切れだろう? 休んでいていいのに」

「ネイトンが調査をしているのに、私達だけ休むわけにもいかないだろう」

「今の魔力でも、ちょっとくらいは戦えますしね」


調査には、ミアとネムが同行してくれている。

ふたりとも魔力切れ同然……というのは普段の彼女達と比べればの話で、今でさえ彼女らは一般人から見れば膨大な量の魔力を持っている。

今の彼女たちでも、護衛としては十分すぎる……というかもったいないほどの戦力だ。


さらに俺達がいる場所を遠巻きに囲うように、10人ほどの魔法師団員が目を光らせてくれている。

あまりにも豪華すぎる護衛陣形に守られながらの調査となると、なんとしてでも成果を出さないといけない……そういう気持ちにさせられるな。

まあ、いくら気合を入れたところで、無理なことは無理なのだが。


「すごい破壊痕だな……」

「これじゃ、痕跡とかも消えちゃってそうですね……」


魔法師団が魔物を殲滅した跡地だけあって、一帯の地形はひどく破壊されていた。

元々は草原だったはずの場所は黒く焼け焦げ、地面の一部は高熱によってガラス化している。

確かにこれでは、地上にあった痕跡は消えてしまっていそうだな。


地面にはいくつか、穴を掘った跡がある。

これは魔法師団が調査のために掘った穴だろう。

穴は等間隔に掘られているので、おそらくなにか理由があって穴を掘る場所を決めたというよりは、闇雲に掘ってみてなにか出てくることに期待したといった感じだな。


そう考えつつ歩いていると……俺は怪しげな場所を見つけた。

遠くからではわかりにくかったが、近付いてしまえば簡単だ。


「あったぞ。あそこの下15メートルに、魔力吸収板が埋まってる」


魔力吸収板。

その名の通り、魔力を吸収する力を持つ板だ。

これが埋まっているということは、その裏側になにか隠したい魔力があるということを意味する。


「どうして魔力吸収板があると分かるんだ?」

「魔力が変な消え方をしてるだろ?」


俺の言葉を聞いて、ミアとネムが顔を見合わせた。


「ミア先輩、分かりますか?」

「安心してくれ。私も分からない」


膨大な魔力を持つ二人は、こんな微小な魔力の動きには無頓着なようだ。

二人がその気になって練習すれば、こんなものは簡単に見つけられるようになるのだろうが……才能ある魔法使いは、こんなくだらないことの練習をしている暇はないのだろう。


父も微小な魔力の存在に気付かないことが時々あった。

優秀な魔法使いは、あまり小さすぎる魔力を気にしないものなのかもしれない。


そもそも、こんなことは人間がやる必要などないともいえる。

こんな魔力は魔道具を作れば俺なんかいなくても検知できるし、専門的な犯罪捜査機関は、そういった魔道具をいくらでも持っていることだろう。

そこまで設計の難しい魔道具ではないし、魔道具に可能なことは魔道具にやらせればいいのだ。


とはいえ街を守るために大急ぎでやってきた魔法師団が、戦闘と関係ない微小魔力捜査の魔道具などを準備していないのは当然だ。

そのおかげで、俺にも多少は仕事がある。


そう考えつつ俺は袋から魔石を取り出し、掘削魔法を発動した。

青白い魔力でできた刃が、地面を少しずつ削っていく。


「穴掘りは私が引き受けようか? 穴を掘るくらいなら今の魔力でも大丈夫だ」


穴を掘る俺を見て、ミアがそう答えた。

普段のミアの魔力を見慣れていると、今のミアは魔力切れ同然にしか見えないが……これでも一般人と比べれば10倍以上の魔力がある。

確かに、ちょっとした穴掘りだけなら十分だろう。


だが非常時になった時、彼女が少しでも魔力を残しているかどうかは、俺達全員の運命を左右する可能性もある。

魔石をケチるためだけに、ミアの魔力を消費するわけにもいかないだろう。


「いや、大丈夫だ。魔力はとっておいてくれ」

「……分かった」


そう言葉を交わして、俺は魔法で地面を掘り進める。

魔石から抜き出せる魔力など微々たるものなので、掘り進むペースは非常に遅いが……罠などが仕掛けられている可能性もあるので、このくらいでちょうどいいだろう。

俺が犯人だったら、もし細工がバレて調査が始まった時には自動的に証拠を隠滅するような仕掛けくらいは仕込むだろうし。


そう考えながら掘り進むこと10分ほど後。

半分ほどの地点まで掘ったところで、俺は罠を見つけた。

魔力吸収板の裏側に、魔道具が仕込まれているのだ。


「罠が仕掛けられてるみたいだ」

「どんな罠だ?」

「魔力吸収板のせいで術式がちょっと読みにくいが……多分、魔力を感知すると爆発するタイプの罠だな」


俺の言葉を聞いて、ネムが青ざめる。

実戦経験の多いミアは冷静な表情だが、ネムはこういった罠を見るのが初めてなのだろう。


「そんな罠があるのに、魔法で掘り続けて大丈夫なのか?」


少し後ずさったネムを横目に、ミアがそう尋ねる。

掘るのを止めようとしないあたり、大丈夫だとは察しているのだろうが。


「魔道具の感度は大したことがないから、吸収板を剥がさない限りは大丈夫だと思うぞ。……もし高感度な魔道具だったら、地上で魔法師団員が暴れまわった時点で爆発してる」


俺は人間相手の罠など作ったことはないが、その感度調整が難しいであろうことは想像がつく。

感度が低すぎれば意味がないし、感度が高すぎると必要のないときに爆発してしまう。

そのバランスを取るのも、罠作りの腕の見せ所なのだろう。

逆にその感度が分からなければ、こちら側もどう対処していいかわからない。


だが幸いなことに、魔道具に流れる魔力を見れば、術式やその感度は読み取れる。

この感度なら、吸収板越しの魔力では爆発しないはずだ。

調査員が魔力吸収板を剥がした瞬間ドカン……というのが、犯人の狙いというわけだ。


「まあ、一応離れておいてくれ。うっかり爆発させたら危ないからな」

「……うっかり爆発させる可能性があるなら、ネイトンも離れたほうがいいんじゃないか?」

「魔法による爆発なら何とかなる」

「すまない、相手がネイトンだということを忘れていた」

「他の人たちに、魔法を使わないように伝えておきます!」

「今の距離なら魔法を使っても大丈夫だぞ。でもこっちには撃たないでくれ」


そう言葉を交わして、ミアとネムが離れていく。

どうやら通信魔法で、他の隊員にもあまり魔力を撒き散らさないように伝えてくれているようだ。

まあ、わざわざ伝えなくとも、俺に向けて魔法を撃ったりはしない気もするが……なにか俺を手助けするつもりで事故を起こしてしまう可能性もなくはないので、連絡しておくに越したことはないだろう。


俺はそう考えつつ、さらに穴を掘っていく。

そして魔力吸収まで10センチくらいになったところで俺は掘削魔法を調整し、板を露出させた。


魔力吸収板の端を掴みながら、俺は周囲の魔力を吸収し始める。

ここにいる魔法師団員たちは、たとえ魔法を使わずとも、周囲に大量の魔力を放っている。

そのため何もせずに魔力吸収板を剥がすと、それだけで罠が反応して爆発してしまうのだ。


というわけで一旦、俺自身が魔力吸収板の代わりになることにした。

空気中の魔力は人間には扱えないのだが、人間が放出したばかりの魔力であれば、なんとか扱うことができるのだ。


俺は慎重に魔力を調整しながら、魔力吸収板を掴んで引っ張る。

だが……それは、すごく重かった。


「お、重い……!」


板は特に固定されている様子もないが、単純に重すぎるようだ。

俺は仕方なく、身体強化魔法を使うことにした。

魔力を感知して爆発する魔道具の目の前で魔法を使うというのは、少し勇気が必要だが……まあ、魔力が魔道具のほうに飛ばなければいいだけなので、なんとかなるだろう。


身体強化を使い、渾身の力を込めながら板を引っ張ると……板は少しずつ持ち上がっていく。

恐らく魔法師団員達なら、こんなものは身体強化魔法であっさり持ち上げてしまうのだろう。

だが、魔石に含まれる少量の魔力を使ったり、彼らが無意識に撒き散らす魔力のおこぼれにあずかったりするだけの俺では、このくらいが限界だ。


とはいえ、今回ばかりは自分の魔力の貧弱さが役に立ったと言えるかもしれない。

俺が扱っている魔力はあまりにも微量過ぎて、魔道具を反応させることすら難しいのだ。


「やっぱり、こんな感じか」


俺は魔力吸収板の裏側に張り付いていた魔石に手を当て、魔力をすべて抜き取る。

これで魔道具は無力化できるが、この魔道具の作成者につながる魔力の情報は、俺の記憶の中にしか残らないことになってしまった。

証拠保全を第一に考えるなら、魔力検知の部分だけを壊すべきだったのかもしれないが……今回は、一番安全な方法を選ぶことにした。

なぜなら証拠となる魔道具は、他にも沢山あったからだ。


「魔道具が見つかったぞ! 罠はもう無効化したから、戻って来てくれ!」


俺はそう言って、地面を指す。

すると……ミアとネムに加え、数人の魔法師団員が俺の元へと集まってきた。


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