第32話 最強賢者、調査依頼を受ける
レオニリアの街での戦いの少し後。
俺が師団長に、援軍が来る前の戦いの経緯を報告していると……師団員たちが次々と戻ってきた。
「周辺区域の魔物、すべて殲滅しました!」
「攻撃の余波によって発生した山火事も、鎮火完了です!」
どうやら、大発生した魔物は無事に倒せたようだ。
とはいえ大発生の本体はとっくに全滅して、今はもう残党狩りに入っていたようだが。
「ご苦労。ところでマギル、第3部隊の消耗具合はどうだ?」
「けっこう消耗してます。魔物自体は弱かったんですが、なにぶん数が多くて……」
そう言って彼は、疲れたような顔をする。
だが半分以上残った魔力が、今回の戦いが彼らにとって余裕のあるものだったことを示していた。
魔力の様子も、まったく乱れてはいない。
「ネイトン、疲れているように見えるか?」
なぜか師団長は、俺にそう尋ねた。
魔力だけ見るなら、疲れていないと即答するところだが……わざわざ聞くということは、実は違うとかだろうか?
そう考えていると……報告に来た師団員は、俺に向かって何かを頼み込むような仕草をした。
だが次の瞬間、師団長がマギルのほうを振り向く。
「冗談だ。私の目でも、魔力がまだまだ残っていることくらいは分かるさ」
その言葉を聞いて、マギルは苦笑いする。
そんなマギルに、支部長は頷いた。
「というわけで、君たちには王都の守りに戻ってほしい。できるだけ速くな」
「はい……」
そう言って彼は、とぼとぼと出ていく。
どうやら王都の守りに戻るよう命令されるのは、とても悲しいことのようだ。
「マギル、なんであんなに悲しそうだったんですか?」
「急いで長距離移動ってのは、魔法師団で一番キツい任務なんだよ。方法はいくつかあるが……今回は準備も何もないから、魔力が尽きないギリギリの量で魔力を使いながら1日20時間も移動を続けることになる」
「そ、そこまでするんですか……」
「王都付近の魔法師団が手薄になる時間は、できるだけ減らさなきゃならない。だから事後処理に必要な人数だけ残して、残りは地獄の王都マラソンだ。……正直、前線で魔法をぶっ放すほうが移動よりずっと楽だよ」
なるほど、それであんなに悲しそうだったというわけか。
王都から飛んできてあれだけの戦いを繰り広げた後、すぐにそんな過酷な移動はしたくないな。
だが俺と違って代えの効かない戦力である彼らは、あまり長く王都を空けられないというわけだ。
まるで軍隊……というか軍隊そのものだ。
異常なまでに高い給料は、こういった労働環境と引き換えなのかもしれない。
「安心してくれ。たった4人で街を守り抜いたんだから、ネイトン達はゆっくり休んでいられるようにするさ」
どうやら、俺達は地獄の王都マラソンに参加せずに済むようだ。
魔力を持たない俺は、参加したところで他のメンバーについていけないので、最初から参加資格がない。
だが最後まで最前線で戦ったミアとネムがゆっくり休めるというのは、魔法師団なりの思いやりを感じるな。
などと考えていると……次に見張り塔へとやってきたのは、父ルインズだった。
父は転移門を発動した後、転移魔法の偽装工作や犯人探しなどをしに行くとのことだったが……犯人の手がかりでも見つかったのだろうか。
「ネイトン、犯人探しを手伝ってくれない?」
……どうやら見つかったのではなく、探すのを手伝ってほしかったようだ。
しかし優秀な魔法師団員が沢山いる中で、わざわざ俺を指名する必要があるのだろうか。
「犯人探し?」
「ああ。大発生の跡地を調べてみたんだけど、工作の痕跡とかは見つけられなかったんだ。……だから、ネイトンに調べてもらおうと思って」
「俺、犯罪捜査なんてやったことないよ」
今まで実家で暮らしてきた俺は、もちろん魔法犯罪の捜査など経験がない。
おそらく魔法師団には、俺よりずっと優秀な調査員が沢山いることだろう。
沢山の人々が住む街が滅ぼされそうになった事件の調査は、そういった人々の仕事だと思う。
「ネイトンの力があれば、今すぐにでも王国最高の魔法犯罪調査官になれるさ」
「魔法犯罪調査官達が聞いたら、きっと怒るよ」
相変わらずの親バカだ。
親バカは今更だから別に気にしないが、魔法犯罪調査官たちに対して、あまりにも失礼だと思う。
魔力すら持たない未経験者がプロに勝てるだなんて、職業に対して最大の侮辱と言っていいだろう。
「父さんが調べても出てこなかったんだよね?」
「ああ。大規模な破壊を伴う方法でよければ、考えられる手はまだあるんだが……現場を荒らす前に、ネイトンに頼もうと思ってね」
「……父さんが調べて何もなかったなら、証拠は残ってないってことだと思うけど……」
「ヘルマンおじいちゃんとのかくれんぼは、私よりネイトンのほうが強かっただろう?」
……確かに、かくれんぼでは俺のほうが強かった。
魔力を隠した祖父ヘルマンを探すことに関して、当時の俺は一度も負けたことがなかったのだ。
とはいえあんなものは子供の遊びだし、父は手加減をしてくれていたのではないかと思っているが。
「犯罪の痕跡探しだって似たようなものだよ。……もしネイトンでも見つけられなかったら、もう証拠はなかったってことで諦めるからさ」
「分かった。師団長に許可をもらえるなら、見てみるよ」
元々俺は、父の頼みを断るつもりはない。
役に立てるかどうかは分からないが、頼まれたらやるだけやるというのは、俺が今までも心がけてきたことだ。
俺はただでさえ一族の落ちこぼれなのだから、せめて言われたことくらいは頑張るべきだろう。
とはいえ今の俺は、魔法師団の一員として働いている。
いくら父の頼みでも、団長の許可もなく勝手に動くわけにはいかないだろう。
ただでさえ、身に余る給料をもらっているのだから。
「ネイトン、体力は大丈夫なのか?」
「それは大丈夫です。他のメンバーと違って、消耗する魔力も最初からありませんから」
「では、私からも頼む」
師団長の許可が下りた。
あまり期待はできないだろうが、俺が魔法犯罪調査官の真似事をするのは確定のようだ。
「ラジウス、ネイトンの安全確保は頼んだよ。……私が直接護衛したいところだけど、いろいろ隠蔽工作に時間がかかりそうなんだ」
「安心してくれ。現場の周囲は師団員が警戒しているし、護衛もつけるさ」
「頼んだよ」
そう言って父は、忙しそうな様子でどこかに飛んでいった。
例の転移魔法の隠蔽工作は、なかなか大変なのだろう。




