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第27話 最強賢者、投げられる


「ぜ、全力の炎魔法って……」

「『極大暴炎砲』だ」


極大暴炎砲。

『魔法理論とその応用』をはじめとする多くの魔法書の中で、理論上最大の威力を持つ魔法として書かれている術式の一つだ。


今となっては、あれより強力な魔法自体はいくつも存在する。

だが、瞬間的に放出される魔力量があれより多い魔法は、他に存在しない。


本には『こんな術式も理論上は組めるが、これを発動できるほどの魔法出力を持つ人間はいないだろう』と書かれていたが……魔法使いの体や育成理論も、時代とともに進化している。

あの本が書かれた当時は誰も発動できなかった『極大暴炎砲』に、魔法使いの力が追いついたのだ。

もっとも……父が言うには、あれを使える人間はこの世に10人といないらしいが。


「私、『極大暴炎砲』なんて使えるって言いましたっけ?」

「魔力を見れば分かる」


あの魔法の発動には、極めて高い魔法出力を瞬間的に発揮することが求められる。

いくら魔法的才能に優れるネムといえども、あの魔法の発動を前提とした鍛錬を積まない限り、発動はできないだろう。

そしてネムの魔力には、そういった鍛錬の痕跡があったのだ。


今までのネムの戦闘で魔力制御の甘さが見られたのは、恐らくその鍛錬の影響もあるだろう。

ネムの魔力制御は巨大な魔力を扱うのに特化したもので、小さい魔力をちまちま扱うのには向いていなかったのだ。


「……あれ、人に撃ち込むような魔法じゃないですよ?」

「大丈夫だ。多分なんとかなる」

「多分……」


確実に、と言えないのは当然だろう。

俺が今までに受けたことのある『極大暴炎砲』は、父のものだけなのだ。

術式自体は同じものであっても、使い手によって魔法の性質はわずかに変わる。

父の魔法が防げたからといって、ネムの魔法が防げるとは限らない。


だが確実に言えることもある。

それは、このまま漫然とドラゴンとの戦いを続けようと、状況は絶対に改善しないということだ。

これほどのドラゴンを相手に、たった3人で戦うとなれば……ある程度の危険が伴うのは、仕方がないだろう。


「分かりました」


その言葉と同時に、ネムの体から凄まじい量の魔力が放出され始める。

ドラゴンすらちっぽけに見えるほどの、魔力の奔流。

それはネムの周りに集まり、渦を巻き始める。


「……本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ」


ネムの魔力に危険を感じたのか、魔鉱竜がまた炎を吐く。

それを散らす俺を見ながら、ネムが口を開いた。


「ミアさんの魔法を防げるネイトンさんに、私の魔法なんて効くわけがありません」


そう告げながら、ネムが目を閉じる。

術式の構築が始まった。

魔力の渦は細く収束して糸へと変わり、魔法陣へと変わり始める。


「ミア、俺を投げろ!」


俺は術式の構築ペースを見ながら、ミアにそう告げた。

もうネムは完全に術式に集中していて、タイミングを合わせるような状況ではない。

それは、俺達のほうで合わせるべきだ。


「っ……了解!」


ミアはそう言って、俺をドラゴンに向けて投げつけた。

ドラゴンは、突然投げつけられた俺に向けて爪を振るう。

その爪が俺に届くよりも前に――ネムの魔法が発動した。


白い炎の奔流が、俺めがけて猛然と吹き荒れる。

この魔法出力は……父が俺に向けて放ったものすら越えている。


「いいタイミングだ」


俺はその制御を離れた魔力を使って加速魔法を発動し、炎の軌道から体をそらす。

すると、炎は俺を爪で薙ぎ払おうとしていた魔鉱竜を焼いた。


「ガアアアアァァ!」


炎を浴びたドラゴンが、怒りの声を上げる。

それなりの効果はあるようだが、断末魔といった感じの声ではないな。


まあ、単にこの魔法を浴びせただけでは威力不足なのは、最初から分かっていたことだ。

だからこそ、俺を投げつけてもらった。


俺は吹き荒れ続ける炎に両手を向け、全力の魔力制御を発動する。

すると……まるでレンズに光が集められるかのように、炎の魔力が収束し始める。


そして極限まで圧縮された魔力は――黒く染まった。

黒い柱と化した魔力の奔流が魔鉱竜に当たると、一瞬にして胴体を貫き、通り道にあった魔石と心臓を消滅させる。


「黒色魔力砲……これを使ったのも久しぶりだな」


地面に転がって着地の衝撃を殺しながら、俺はそう呟く。

ほぼ同時に、魔鉱竜が地面に倒れ伏した。

どうやら、ドラゴンのほうは何とかなったみたいだな。


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