第26話 最強賢者、盾になる
ネムに向かって火を吹く直前で、魔鉱竜は俺のほうを向いた。
どうやら挑発魔法は成功したみたいだな。
魔石で使える低出力の挑発魔法でも、魔力感知器官に直接ブチこめばそれなりの効果はあるようだ。
「な、何でいきなり……!?」
「いいから降りてこい! 体勢を立て直すんだ!」
ネムとミアは状況が分からず、困惑しているようだ。
だがミアのほうは戦闘経験が長いだけあって、困惑しながらもやるべきことを分かっているな。
一方、魔鉱竜は猛烈な勢いで、俺まで100メートルちょっとの所まで走ってきた。
そして……俺に向かって炎を吹き出す。
俺は魔力操作で、自分に当たりそうな位置の魔力を横に吹き散らし、自分が生存できるだけの安全地帯を作り出す。
さらに、制御を奪えたわずかな魔力で断熱魔法を発動し、余波で焼き焦げるのを防ぐ。
……戦いを見ながらイメージした通りだ。これなら何度でも防げそうだな。
その間にネムは着地し、体勢を立て直したようだ。
表情にも少しだけ、落ち着きが戻ってきている。
どうやら、元々の目的は達成できたようだな。
しかし……問題はそこからだった。
魔鉱竜が、こちらに向かって走り出したのだ。
ドラゴンにとって最大の武器は炎で、爪や尻尾などの物理攻撃は大したことがない。というか普通は当たらない。
――というのは、ドラゴンと正面から戦えるだけの力を持ち、強力な身体強化や飛行魔法で攻撃をかわせる人間の話だ。
俺にドラゴンの爪がかすりでもしようものなら、次の瞬間にはバラバラ死体の完成だろう。よくて致命傷だ。
しかし凄まじい速さで走ってくるドラゴンを相手に、俺ができることはほとんどない。
なにしろドラゴンは、比較的遅いほうの種類であっても、時速100キロ近くで走れるのだから。
「……炎だけにしてくれよ!」
俺はそう叫びながら、魔鉱竜に背を向けて走る。
魔石を使って身体強化を発動しているが、こんなものは気休めにもならない。
そうして俺は追いつかれ――背中を衝撃が襲った。
だが、俺に当たったのは竜の爪ではない。
竜を追い抜かす速度で走り抜けた、ミアだ。
「ありがとう、助かった」
「ネイトン、なぜここにいる! レオルスに行けと言ったはずだ!」
俺を肩に担ぎながら走るミアが、そう叫ぶ。
どうやら助けてくれたようだ。
「近道をしようとしたら、道に迷ってしまったんだ」
白々しい嘘をつきながら俺は、魔鉱竜の魔力を見ていた。
どうやら魔鉱竜は、もう一度炎を吹こうとしているようだ。
しかし流石のミアも、俺を抱えた状態では普段ほどの速度は出ないようだな。
まあ、すでに対処法は決まっているのだが。
「ミア、俺を盾にしろ!」
「元々……そのつもりだ!」
そう言ってミアが、俺をドラゴンのいるほうに突き出す。
俺は先ほどと同じように、炎の魔力を散らした。
「なかなかいい盾を拾ったな。援軍に感謝する」
どうやら命令違反のお咎めはなさそうな雰囲気だな。
腕立て伏せはせずに済むみたいだ。
「ネム、作戦変更だ! ネイトンを盾にして戦うぞ!」
「了解です!」
そう言ってネムが、俺を掴んだミアの後ろに隠れる。
これでドラゴンにとって最大の武器である炎は封じた。
俺にとっては恐怖である爪や尻尾も、ミアが俺を運んでくれるなら心配ない。
あとは、あの再生する魔鉱竜を倒す方法があればいいだけだ。
「ネイトン、戦いは見ていたか?」
「ああ。最初からな」
無罪放免が決まったので、俺は嘘をつくのをやめた。
ドラゴンの目の前で、今までの戦いの説明を受けたくはないしな。
「あれだけ攻撃を加えたにもかかわらず、効いている様子がない。理由に心当たりはあるか?」
「ああ。再生能力だ。あのドラゴンは再生する」
俺の言葉を聞いて、ミアが黙り込む。
信じられない、といった顔だ。
無理もないだろう。
少なくとも俺が読んだ本には、短時間での再生能力を持つのはスライムなどごく低位の魔物だけで、高位の魔物ではありえないと書いてあった。
高位の魔物の体は魔法的な複雑度が段違いなので、そんなに短時間で再生することはないのだ。
しかし、ここに実例がいるのだから仕方ない。
俺が見るべきは本の知識ではなく、目の前にある現実だ。
「このまま私達が攻撃を続けて、倒せると思うか?」
「……さっきまで使ってた炎魔法は、全力か?」
「ああ。出し惜しみはしていない」
なるほど、あれが限界か。
それだと恐らく、再生ペースには追いつけないな。
敵の再生に限界がある可能性もゼロとはいえないが、今のところそういった様子は見当たらないし。
「じゃあ無理だ。先に魔力が尽きる」
「倒す方法に心当たりはあるか?」
「ある」
ミアの質問に、俺はそう答えた。
やや乱暴な感じもするが、魔法理論的には極めて合理的な方法だ。
「教えてくれ」
「ネムの全力の炎魔法を、あのドラゴンに撃ち込む。……それが着弾するのとタイミングを合わせて、俺をドラゴンに投げつけるんだ」




