第20話 最強賢者、緊急事態を察知する
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それから数日後。
俺たちは順調に龍脈柱を調査しながら、予定されたルートを進んでいた。
ブラッド・ベアを何匹か倒したの以外は、特に異変なども見当たらず順調な道のりだ。
「ではネイトン、今回も頼んだ」
「ああ」
俺はそう言葉を交わして、龍脈観測所へと入る。
俺以外の二人はすでに記録を終え、最後が俺の番だ。
俺は観測所の扉を閉めると例の袋からFランクの魔石を取り出した。
これさえあれば、龍脈から魔力を吸い上げずとも転写魔法が使えるというわけだ。
ちなみに任務に使う魔石代は申請すれば騎士団から出るらしい。
このくらいは安価なFランクの魔石で何とかなるので、特に申請をするつもりはない。
あれだけの給料をもらっているのだから、1個1000ラピスの魔石くらいは自分で出してもいいはずだ。
そう考えながら龍脈柱に手を当て……俺は違和感を覚えた。
「これは……?」
龍脈柱から、今までに見たことのない波動を感じる。
小さく乱雑な波動と、大きくゆったりした魔力波動……その2つが、はるか遠くから伝わってきた。
前者は恐らく、膨大な数の魔物の群れ。そして後者は――恐らく、極めて高位の魔物だ。
どちらも自分では直接見たことのない魔力だが、魔力の特徴は、本などにあった記述とほぼ完全に一致している。
違和感を覚えた場所は、地図の範囲のはるか外だ。
恐らく、100キロほど先だろう。
とはいえ……この魔力観測では、異変を感じたらすぐに報告する規則だ。
「ミア、なんかヤバそうな魔力を見つけた」
「ヤバそうな魔力?」
「ああ。やたらと大きい魔力反応と、魔物の群れの魔力反応だ」
俺の言葉を聞いて、ミアの表情が引き締まる。
どうやら緊急事態の覚悟を固めたようだ。
「よく見つけた。どのあたりだ?」
「地図の範囲よりさらに外だ」
「じゃあ、こっちの地図でいいか?」
そう言ってミアが、広範囲の地図を広げる。
この地図なら、魔力反応の場所まで入っているな。
「大きい魔力反応はこのへんで、魔物の群れっぽいのはこのあたりだな」
俺が指で示したのは、レオニリアの北東にある山のあたりだ。
両者の間には30キロほどの距離があるが、どちらもレオニリアの近くには代わりないな。
「レオニリアって……100キロも先だぞ!? そんな遠くまで分かるのか!?」
「ミアさん、『無波動魔力探知』を使う人に、そんなこと言っても仕方ないですよ……」
「……確かにそうだな……ネイトン、大雑把でいい。魔物の数と種類は分かるか?」
数と種類か。
流石に遠くからギリギリ魔力に気付けたくらいなので、そこまで完璧に推測するのは難しいな。
ここから種類と数が分かるほどはっきりした魔力反応だったら、前の街の時点で気付いているだろうし。
とはいえ、大体の予想は立つ。
魔力の量と質、そして波長からすると……。
「ほとんどカンみたいなものだが……大きいほうはAランク上位のドラゴン、魔物の大発生のほうは30万体くらいだ」
俺の言葉を聞いて、ミアが青ざめた。
どうやら俺が報告した内容は、魔法師団員ですら危険を感じるような内容のようだ。
まあ、当然といえば当然だろう。
Aランク上位のドラゴンなんてどう倒せばいいのかわからないし、30万体もの魔物が襲ってきたらどうしようもない。
魔力のない俺と違って、ミア達なら多少は持ちこたえられるだろうが……結局はそのうち魔力を使い果たし、数で押しつぶされるだけだな。
「確実とは言えないぞ。あくまでカンというか……伝わってきた魔力と、俺の知識で立てられる範囲の予想だ。予想が間違っている可能性も……」
「いや、信じるさ。魔力観測に関して、ネイトンほど信用できる人間はいない」
そう言ってミアは、近くの建物に向かって走る。
建物には『騎士団詰所』と書かれていた。
「魔法師団のミアだ! 王都魔法師団に緊急連絡を頼む! レオニリア北東にて魔力異常を観測、Aランクドラゴンおよび30万の魔物群が予想される!」
詰所の扉を開けたミアは、挨拶もなしにそう叫んだ。
すると中から、騎士と思しき声が返ってくる。
「復唱します! レオニリア北東にて魔力異常を観測、Aランクドラゴンおよび30万の魔物群が予想される!」
「頼んだぞ!」
「了解しました!」
なるほど、緊急連絡は騎士団経由なのか。
魔法師団は人数が少なく、団員が常駐するような場所は王都くらいにしかないので、連絡などは騎士団に頼むようだ。
「俺たちはどうするんだ?」
扉を出てきたミアに、俺はそう尋ねる。
ミアはその言葉に即答した。
「レオニリアに急行する!」
「了解です!」
どうやらミアとネムは、魔法師団の援軍を待たずに現地に向かうことにしたようだ。
いくら魔法師団員といえども、たった2人(俺は魔力がないのでカウントしない)で30万の魔物に囲まれれば命はないと思うのだが……。
「ドラゴンはともかく、魔物の群れのほうはどうするつもりだ?」
「まずは援軍が来るまで、魔物が街を襲わないことを祈る。もし襲撃があれば……その時は援軍が到着するまで、時間稼ぎだな」
援軍が到着するまでって……どのくらいかかるのだろう。
なにしろ、ここからレオニリアまでの距離は100キロほどだが、王都からレオニリアは400キロもあるのだ。
などと考えながら走るうちに、俺たちは乗ってきた馬のもとにたどり着いた。
「ネム、街を出たら馬に強化魔法を使ってくれ!」
「了解です」
どうやら馬の強化魔法はネムの担当のようだ。
彼女はとにかく魔力量が凄まじいので、移動に多少の魔力を使っても問題がないというわけだな。
そう考えながら俺はミアの後を追う。
馬はあっという間に街から出て、街道を走り始めた。
「強化魔法、いきます!」
ネムが魔法を使うと……馬の速度が一気に上がった。
周囲の景色が、あっという間に後ろへと吹き飛んでいく。
俺は手元にあった魔石で計測魔法を発動し、速度を調べてみた。
「じ、時速120キロ……!」
馬に乗ってこんな速度を出したのは初めてだ。
1時間とかからず、レオニリアについてしまう計算だな。
本だと、魔法で強化した馬の限界速度は時速90キロがせいぜいと書いてあったのだが……魔法師団員が相手となると、本に書いてある常識は通用しないようだ。




