第19話 最強賢者、国宝を作る?
それにしても、流石に2つというのは少なすぎる気がする。
たとえ他の魔道具の劣化版みたいなものだとしても、見習い付与魔法使いなどが練習で作ることはあるだろうし。
そう考えていると、ミアが口を開いた。
「一つは王家の宝物庫にある」
「……もう一つは?」
「ここだ」
そう言ってミアが、俺が先程作った袋を指す。
これもカウントに入れていたのか。
「今は亡き天才魔導具師ディア=マギウスが、Sランクドラゴンの魔石から作った『奇跡の革袋』……今は国宝として宝物庫に収納されているものが、この世界に現存する唯一の『反重力・空間拡張袋』だ。空間拡張だけなら4つほど前例があるが……軽いな。完全な反重力だ」
ミアはそう呟きながら、袋を持ち上げる。
袋は完全に無重力にしてしまうと逆に扱いにくいので100グラムだけ重量を残してあるが、どんなに荷物を入れても100グラムだ。
まあ、荷物が多くなると魔石の消耗が早くなるので、無駄に荷物を入れたくはないが。
しかし……。
「これが……国宝?」
「この袋を王宮にでも持っていったら、すぐにでも国宝扱いになるだろうな」
……この袋、さっき30秒で作ったんだが。それも魔石屋の店主がタダでくれたボロ袋と、Eランク魔石から。
もしやミアは冗談を言って、俺をからかっているのだろうか?
「ネイトン、これは真面目な話だが……魔導具を作るところは、絶対に他の誰かに見られるなよ。それと作った魔導具の効果も人に見せないほうがいい」
ミアは父と同じことを言うんだな。
父ルインズも、人前で付与をしたり魔導具を見せたりするなと言っていた。
今までは外に出ることも少なかったので、あまり気にしていなかったが……やはり気をつけたほうがいいのだろうか。
1人だけならともかく、2人から同じことを言われたとなると、相手のほうが正しいような気がしてくる。
これからは、あまり見せないように気をつけよう。
そう考えていると、ミアが腕を組んで宣言した。
「というわけでネイトン、先程の『普通に袋にしまって』および『普通に収納魔法を付与しただけ』という発言は、『普通』という言葉の誤用になる」
「……もし国宝の話が嘘じゃないとしたら、そういうことになるな」
「嘘じゃない! 腕立て伏せ10回……それが2つで、20回だ! 始め!」
なんだか理不尽な気がするが、今回はリーダーの命令だ。
たとえ冤罪であっても、上官命令には従うのが、魔法師団員……つまり軍人の努めというものだろう。
あれだけの給料をもらった後なら、理不尽にも耐える気になるというものだ。
魔力がないのを補うため、多少は体も鍛えているので、20回くらいなら何とかなるしな。
「了解! 1、2、3、4……」
「顎が地面についていないぞ! 最初からやり直し!」
「……りょ、了解! 1、2、3、4、5……!」
……流石にちょっとひどい気がする。
もし嘘だと分かったら、逆に腕立て伏せをさせてやる。
◇
「ところで、ひとつ聞いていいか?」
腕立て伏せが終わったところで、俺はミアにそう尋ねた。
国宝がどうとかの嘘については後で調べるとして、買い物のときから魔法師団員に聞きたいことがあったのだ。
「何だ?」
「さっき街の本屋に行ったんだが、魔法書があんまり充実してなかったんだ。魔法書はどこで買えばいい?」
「魔法書か。魔法師団員は王立大図書館の魔法書庫を使えるから、そこで調べることが多いが……自分で持っておきたい本は、王都魔法書店で買うことが多いな」
そういう専門店があるのか。
しかし、大図書館のほうが魅力的かもしれない。
やっぱり聞いて正解だったな。
「だが……そもそもマギウス本家には立派な魔法書庫があるはずだろう? 王都魔法書店より品揃えがよさそうだ」
「王都魔法書店には、何冊くらいあるんだ?」
「全部で500冊ほどだな。大図書館に比べると数は少ないが、有名な本はひととおり揃っている」
なるほど、確かにそれだと数だけならウチのほうが多いかもしれない。
まあ、問題は数ではなく質なのだが。
「確かに数は多かったが、簡単な本しかないんだ。間違ってそうな本も多かったし」
「『魔法理論とその応用』は読んだか? ルーカス=ウィナーズという著者の本だ」
「ああ。もちろん読んだぞ。基礎的な内容が体系的に網羅された、いい本だと思った」
ここで、あの本の名前が出るのか。
実は俺が生まれて初めて読んだ魔法書が、まさにその『魔法理論とその応用』だ。
色々な本の中で出典として上げられているので、名著なのだろうとは思っていた。
おそらく魔法使い初心者たちは、みんなあの本を読んで勉強するのだろう。
「……基礎的?」
「ああ。魔法を知らない人に『これから魔法を勉強しようと思うんだけど、何から始めればいい?』と聞かれたら、真っ先にあの本の名前を上げる」
俺の言葉を聞いて、ミアが納得したように頷いた。
それからミアは視線を俺に戻し、よくわからない顔で口を開く。
「……なるほど、事情はよくわかった」
どうやら分かってくれたようだ。
質問の意図はよく分からなかったが、俺が実家で魔法書を読んでいたという話が嘘じゃないかどうかを試していたのかもしれない。
「それなら、レオニリアという街にある、王立大図書館の分館がおすすめだ」
「分館?」
「ああ。王都にある本館より大きくて、『基礎的』じゃない内容の本が沢山あると言われている。数が多いせいで玉石混交だから、もし『基礎的』な内容の本がほしければ王都の本館を薦めるがな」
なるほど、王都は基礎的な内容の本が多いのか。
よく考えてみると、ほとんどの人間は魔法以外に考えるべきことが沢山あるので、魔法は基礎程度で十分なのかもしれない。
そうすると、魔法研究者などに向けたような本は需要が少ないので、分館に回されてしまうというわけだ。
「ありがとう。レオニリアの自由時間で行ってみるよ」
「そうするといい」
いいアドバイスをもらった。
持つべきものは、いい上官だな。
……嘘をついて腕立て伏せをさせようとしなければ、もっといい上官なのだが。




