第18話 最強賢者、買いすぎる
◇
その日の夜。
俺は魔石でいっぱいに入った袋をあちこちに抱えて、上機嫌で宿へと戻っていた。
魔力がなくて困ることが多かったので、思い切って100万ラピス分の魔石を買ったのだ。
購入した魔石は、ほとんどはE~Fランクの魔物から取れたものだが、2つだけDランクのものも含まれている。
低ランクの魔石だと個々の値段はさほど高くないため、100万ラピス分はかなりの量だ。
ちなみにCランク以上の魔石は、流石に買う気にならなかった。たった1個で100万とかするからな。
運ぶのは大変だが、これは俺にとって必要なものだ。
魔力がない俺でも、魔石から魔力を借りれば、小規模な魔法は使えるようになる。
もちろん1個10万ラピスもするDランク魔石でさえ、魔法師団員とは比べれば雀の涙みたいな魔法出力しか出ないのだが……ないよりはずっとマシだろう。
とはいえ……。
「ちょっと買いすぎたかもな」
重い魔石を満載した袋のひもが肩や腕に食い込むのを感じながら、俺はそう呟く。
ひと袋で10キロほどの魔石が、合計で6袋……総計60キロもの重さだ。
正直、歩くのもしんどい。
今まで我慢していた魔石が沢山買えるので、調子に乗って買いすぎてしまったような気がする。
ちなみに、魔法書のほうは不作だった。
店に置いてあった魔法書は、どれも家で読んだことがあるものだったのだ。
もしかしたら、魔法書は魔法書で専門の店があったりするのかもしれない。
そう考えながら歩いていると……俺は視線を感じた。
そちらに目をやると、俺の部屋の前に立ったミアが呆れ顔をしている。
たまたま通りがかったとかではなく、俺を待っていたような様子だな。
「……荷物は控えめにしろと、言ったはずだが?」
ミアの視線は、魔石を満載した袋たちに注がれている。
……確かに、馬に負担がかかるから荷物は軽くしろという命令が出ていたな。
今の状態だと、明らかに重量オーバーだ。
「ミアさん、どうしてそこに?」
「魔法師団の制服を着た人間が、魔石を100万ラピス分も買い込んだという噂を聞いてな」
なるほど、制服が目立つのか。
確かに魔法師団員など、王都以外ではほとんど見かけることすらない存在のはずなので、目立ちそうだな。
街を歩いている時にも、なんとなく視線が集まっているような気がしていたのだ。
「荷物は軽くするから安心してくれ」
「魔石をどうするつもりだ? 倉庫でも借りるのか?」
「いや、普通に収納用の魔法を使うぞ」
俺の言葉を聞いて、ミアは首を傾げた。
まるで俺がおかしなことを言ったみたいな顔だ。
「まるで袋に入れると、荷物が軽くなるみたいな言い方だな」
「軽くなるし、小さくなるだろ。……ちゃんと袋は作るから安心してくれ」
そう言って俺は部屋に入り、持ってきた袋の中で一番小さいものを空にして、その外側に魔石をひとつ置いた。
魔力を調整してやると、魔石と袋が光り、袋の一部に魔石が埋め込まれる。
そして魔石の一部に、収納用の魔法を付与して……完成だ。
俺は魔石でいっぱいになった袋を、完成した袋に片っ端から詰め込んでいく。
その様子を見て、ミアが目を丸くしていた。
「……な、何だその袋は……? どうして大きい荷物が、そんなに小さい袋に入る?」
「普通に収納魔法を付与しただけだぞ。空間拡張魔法と反重力魔法を組み合わせただけだ」
まあ、俺もこの組み合わせの魔法を使うのは初めてなのだが。
どちらの魔法もそれなりに複雑なので、俺が実家で入手していたようなFランク魔物の魔石とかだと、付与が安定させられないんだよな。
「空間拡張魔法と反重力魔法が両方とも付与された袋が、王国にいくつあるか分かるか?」
いきなり難しい質問だな。
付与や設計自体は簡単なので問題ないとして、問題は材料とコストの兼ね合いだろう。
今回使ったEランクの魔石は1個1万ラピスほど……魔道具の魔石原価は2割ほどが相場と聞くので、商品としての袋の価格は5万ラピスと考えていい。
魔石の魔力は1年ほどで尽きてしまうはずなので、年間5万ラピスと引き換えに1年間だけ輸送力を得られるというわけだ。
一般人にとって、この値段はちょっと高い。
おそらくこういったものを使うのは、中級以上の冒険者や商人などだろう。
商人などは複数持つことも多いだろうし、両者の人数を考えると……。
「10万個くらいか?」
「不正解だ。正解は2つ」
2つ……?
そんな馬鹿なことがあるだろうか。
もしかして、もっといい組み合わせの魔法が他にあるのか?




