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第17話 最強賢者、大金を手に入れる


 その日の夜。

 夕食を取り終わったあと、宿の個室(魔法師団が用意してくれたらしい)で魔法の研究を進めていると、扉がノックされた。


「ネイトン、ちょっといいか?」


 ミアの声だ。

 もう任務は終わったので、自由時間にしていいと言われていたはずなのだが……もしや火事を防いだとき、ネムの魔力を操作したのがバレていたのだろうか。

 あの場では気付かないふりをしながら、お説教に来たのかもしれない。


「……何かあったのか?」


 俺は腕立て伏せの覚悟を固めながら、恐る恐る扉を開ける。

 すると……そこには革袋を持ったミアが立っていた。

 魔力の感じからすると、中身はおそらく金属の円盤……つまり硬貨などの可能性が高そうだな。


「先ほど団長から『支度金を渡し忘れた』という連絡を受けた。この街の領主が建て替えてくれたから、これを受け取ってくれ」

「……支度金?」

「ああ。魔法師団への入団者には、初任給の3ヶ月分にあたる支度金を渡す規則だ」


 なるほど、そんな制度があるのか。

 支度金という名前からすると、魔法師団員として活動するための基盤を整えるのに使うべき金だろうか。

 変な使い方をすると怒られそうだな。


「これ、好きに使っていいのか?」

「好きに使って構わない。次の給料は1ヶ月後だから、それまでの生活費は残しておくことを薦めるがな」


 自由みたいだな。

 どうやら、給料の前借りなどではないようだ。


「ありがとう。助かるよ」


 俺はそう言って、ミアから革袋を受け取る。

 そして俺は、革袋の重さに気付いた。

 硬貨として流通している金属で、ここまで重いものは一つしか思い浮かばないが……まさか。


 革袋の中をのぞいて、俺は予想が正しかったことを理解した。

 これ、全部金貨だ。


 金貨は1枚10万ラピス……庶民なら1枚で1ヶ月は暮らせるような金額だ。

 そんな金貨が、袋いっぱいに入っている。

 おそらく100枚近い。


「……金貨がいっぱい入ってるぞ」

「仕方がないだろう。金貨は確かに使いにくいが、銀貨で用意したら重くて仕方がない」


 いや、そういうことを言っているのではないのだが。

 確かに金額がでかすぎて、店では使いにくいが……そういう話ではない。

 もっと大きな問題があるはずだ。


「金額、間違ってないか?」

「ちゃんと確認したから間違っていないはずだぞ。ネイトンの初任給が月に300万ラピス、それが3ヶ月分で900万ラピスだ」


 ……俺の初任給、300万ラピスだったの……?

 確かに魔法師団はとても給料が高いとは聞いていたが、初任給30万ラピスとか……よくて50万ラピスとかだと思っていた。


「思ったより少なかったかもしれないが……まあ落ち込むな。最初のうちは給料なんてすぐに上がるからな。ネイトンならすぐに1000万くらいはいくさ」


 1000万……年に1000万でも高いのに、これって月の話だよな?

 だがミアは、その給料に対して何の疑問も抱いていないようだ。

 それどころか、俺が月に300万の給料に対して、低すぎて落ち込んでいるんじゃないかと心配すらしている。


「……魔法師団の給料って、そんなに高いのか?」

「ああ、もっと低いと思ってたのか。……魔法師団員はみんな、冒険者として働けばそのくらいは稼げる人間だからな。このくらいはもらってもバチは当たらないさ」


 なるほど、確かに言われてみれば、俺以外の魔法師団員は全員が超優秀な魔法使いだ。

 冒険者もトップ層の収入は凄まじいと聞くし、エリート魔法使いの収入はそこが基準なのだろう。

 俺なんかがこんな金額をもらうのは申し訳ないところもあるが、給料を下げるために交渉するのもおかしな話なので、ありがたく受け取っておこう。


 そして何より……お金がたくさんあって、嬉しい。

 実家では、自分の金というものを持つことがなかったのだ。


 父は『欲しいものは何でも買ってやる』と言ってくれていた。

 それは本当のことだったようで、以前に一度、執事がいるのに気付かず『魔法触媒用にダイヤが欲しいなぁ』などと呟いたときには、翌日には総額10億ラピスを超えるであろう、膨大な量のダイヤが届いたくらいだ。

 父は『どういうダイヤが欲しいのか分からないから、領地にある魔法触媒用ダイヤを全部買ってきた。足りないのがあれば言ってくれ』などと言っていたが……あの恐ろしい出来事があってからは、絶対に家で『〇〇が欲しい』などと言わないことを誓った。


 というわけで俺は、『自由に使える金』というものを持つことがほとんどなかった。

 家としては『欲しいものは言えばいいから、自分で金を持つ必要はない』ということだったのだろうが、一族の落ちこぼれの分際で、マギウス家の財政に負担をかけるわけにはいかないからな。

 魔導具の設計代金などは家に入れるようにしてもらっていたが、どうせ大した額ではないだろうし。


「買い物に行っていいか!?」

「もちろん構わない。……馬に負担がかけるから、あまり荷物が重くならないように気をつけろよ」

「了解!」


 俺はそう言って、宿を飛び出した。

 ちゃんとした魔石が、今までは買えなかった魔法書が……俺を待っている。



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