第15話 最強賢者、祖父の真実を知る
「魔力でって……まさかネイトン、探知魔法が使えるのか?」
「ネイトンさん、魔力がないはずじゃ……まさか龍脈の魔力を残してたんですか!?」
ネムとミアが、俺にそう尋ねる。
どうやら彼女たちは、俺が広域探知用の探知魔法を使ったと思ったようだ。
「いや、普通に魔力を見て探しただけだ。探知魔法を使ったわけじゃないぞ」
「魔力を見て……探した……?」
「……ネイトンさん、それは『無波動魔力探知』と言って、数ある魔法探知の中でも最高峰の技術の一つなんです……普通じゃないんです……」
……それは流石に嘘だろう。
ミアだって初対面のとき、俺に魔力がないのをちゃんと言い当てていた。
魔力が見えていなければ、絶対にそんなことはできないだろう。
「……ミアも魔力は見えるんだよな?」
「視界に入る範囲ならな。だが視界に入らないような距離で魔力を感じ取って位置まで推定するのは、できる人間がごく限られる技術だ。魔法師団にすらほとんどいないな」
そうだったのか……。
子供の頃にかくれんぼで使っていた技術なので、誰でも子供のうちに覚えるものだと思っていたのだが。
「『無波動魔力探知』なんて、どこで習ったんだ……?」
「おじい……祖父とのかくれんぼで使っていたんだ」
「か……かくれんぼ?」
「ああ。隠れてる祖父を見つけるのに使った」
ヘルマンおじいちゃんとのかくれんぼ……懐かしいな。
彼はかくれんぼを始めると、魔力隠蔽を使って魔力反応を極端に小さくしてしまうので、子供の頃は見つけるのに苦労したものだ。
逆に俺が隠れる側のときには、魔力がないのが優位に働いた。少なくとも魔力探知には引っかからない。
しかしヘルマンおじいちゃんは物音を聞き分けるのが異様にうまくて、少しでも物音を立てようものなら即座に気付かれてしまうので、必死に気配を隠したものだ。
特に、兄のハイシェルが視界にいる時には最悪だった。彼は俺から見える位置にいると俺に向かって変顔をして笑わせようとするので、目をつむって視界に入れないようにする必要があったのだ。
「かくれんぼに『無波動魔力探知』は、反則すぎないか……?」
「でも祖父も使ってたぞ。兄は魔力隠蔽を覚えるまで、それで簡単に見つかってたな」
俺が『無波動魔力探知』を普通の技術だと思っていたのも、それが理由だ。
祖父も使っていたし、兄も『無波動魔力探知』を使おうとしていた。
まあ、祖父が魔力隠蔽してしまうと当時の兄の魔力感度では探せないらしく、祖父が手加減をしない限り『無波動魔力探知』は何の役にも立たなかったのだ。
「そのおじいさんの名前、聞いてもいいか?」
「ヘルマンだ」
「……もしかしてそのヘルマンおじいさん、いま75歳で、昔は魔法諜報部に所属してなかったか?」
「何で知ってるんだ?」
どうやらミアは、俺の祖父について詳しいようだ。
まあ、祖父も引退前は有名な魔法使いだったみたいなので、やはり名前が知れ渡っているのかもしれない。
「……そのヘルマンさんは、私達の元上官だ」
「別のヘルマンさんじゃないのか?」
ミアの上官もヘルマンという名前だったようだが、俺の祖父はその鬼教官みたいな人とは正反対の、やさしいおじいさんだ。
ヘルマンおじいちゃんも魔法師団への所属歴が長かったようだが、もしかしたら魔法師団では『優しいほうのヘルマン』『鬼のほうのヘルマン』みたいな感じで区別されていたのかもしれないな。
両方とも名前はヘルマン=マギウスみたいだし。
そう考えていたのだが……。
「ヘルマン=マギウスは魔法師団に一人しかいない」
どうやら祖父で間違いないようだ。
俺たち相手と魔法師団相手では、接し方が違ったのかもしれない。
「待ってください、ヘルマン=マギウスさんは、かくれんぼに魔力隠蔽術を使わなかったんですか?」
「使ってたけど、範囲が狭いから見つけられたぞ。範囲は屋敷だけだからな」
「つまり……ネイトンさんはヘルマンさんが魔力隠蔽術を使っても、屋敷の端から端までの距離で探知できるってことですか……?」
「屋敷の真ん中から探すから、その半分の距離だ」
魔力隠蔽術を使うと、祖父の魔力反応は蚊と同じくらいの大きさになる。
よく見てみると魔力反応の中身は人間っぽかったり、本物の蚊に比べると魔力の状態が安定しすぎていたりといった違いがあるのだが、それに気付くまでは苦労したものだ。
まあ、それで苦労して、祖父と勘違いして蚊を追い回したりしていた頃のほうが、かくれんぼとしては楽しかったような気もするが。
「……ヘルマンさんって、魔力隠蔽術が得意なはずですよね?」
「得意というか、国内でも有数の達人だ。ついでに言うと、マギウス本家はとても大きい」
「それを簡単に見つけちゃうってことは……ネイトンさん、子供の頃からすごかったんですね……」
どうやら祖父のヘルマンの魔力隠蔽は、かなり上手だったようだ。
確かに兄の魔力隠蔽に比べると、魔力反応は1000分の1くらいになっていたので、子供ながらに結構な差は感じたな。
まあ、魔力感知に関しては、俺が持つ数少ない強みとも言える。
自分の体内に魔力がないことによって、自分の魔力というノイズの影響を受けずに周囲の魔力を観察できるのだ。
などと考えていると、ミアが口を開いた。
「ところでネイトン、さっき『普通に魔力を見て探しただけだ』と言ったな?」
「あっ」
しまった。
龍脈柱の時に、『普通』という言葉は使用禁止令が出ていたのだ。
命令を破ったら……やはり腕立て伏せなのだろうか?
「今回はブラッド・ベアの位置特定の功績に免じて許そう。今回の遠征中にまた間違った形で『普通』という言葉を使ったら、腕立て伏せ10回だからな」
どうやら次からは本当に腕立て伏せになるようだ。
間違って『普通』という言葉を使わないよう、気をつけておこう。
「……ミアさん、他の隊員に腕立て伏せをさせるのは時代遅れだからやめるって言ってた気が……」
「相手がヘルマンさんの孫なんだから、今回の遠征中くらいは許されるだろう」
どうやら今回の遠征さえ乗り切れば、腕立て伏せはせずに済むようだ。
……まあ、ちゃんと正しい意味で『普通』という言葉を使うぶんには禁止されないようなので、普通に話していれば引っかかることはないだろうが。
「ではネイトン、ブラッド・ベアのところまで案内してくれ」
「分かった」
俺はそう言って、魔力反応を目指して走り始めた。




