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第14話 最強賢者、探知する

「……ネイトンが改造人間かどうかの議論は一旦置いておこう。まずは任務を完遂すべきだ」

「了解です!」


 どうやらマギウス家によって人体実験が行われたかどうかは、未確定のまま保留されるようだ。

 まあ、そんな根も葉もない噂を真剣に考えられても困るのだが。


「さて、これから地図を突き合わせていくわけだが……私とネムの地図は、だいたい一致しているな」

「ネムさんのほうがだいぶ詳しい感じですけど、魔物が多い場所とかは同じ結果ですね! 問題なさそうです!」


 なるほど、こうやってダブルチェックを行うんだな。

 ちゃんと一致していれば、信用できる結果だと判断できるというわけだ。


「問題はネイトンの地図だが……魔物のランク分布は、私達のものとあまり変らなさそうだ」

「ものすごく詳しい書き方になってますけど、確かによく見てみると同じ感じですね」


 彼女らの言う通り、俺の地図もミア達の地図も、内容の方向性はさほど変らない。

 俺の地図を要約しろと言われれば俺もミアみたいな地図を書くだろうし、さらに大雑把にやれと言われたらネムみたいな感じになるだろう。


 そう考えていると、ミアが1枚の地図を取り出す。

 地図にはミアの地図と似たような……だが少しだけ分布の違う様子が書かれていた。

 筆跡からすると、ここにはいない誰かが書いた地図だな。


「これが1年前に行われた、前回の調査結果だ」

「あんまり変わってないですね。異常なしでいいでしょうか」

「ああ。特に大規模災害などに繋がりそうな変化は見当たらない」


 以前の地図と突き合わせて、異変を察知するようだな。

 なかなか洗練された、合理的なやり方に感じる。


 今回の調査地点は、異常なしという結果になりそうだな。

 などと考えていると……ミアが口を開いた。


「だが、ネイトンの地図を見ると、ちょっと事情が変わってくる」

「……ものすごく詳しく書かれていること以外、変なところはないと思いますけど……」


 どうやら俺の地図を見て、ミアは疑問を覚えたようだ。

 だが俺も、ネムと同意見だ。この地図を見て、魔物災害などの気配は感じない。

 龍脈に触れた感じでも、異常な魔力の流れなどは見当たらなかった。


 しかしミアは間違いなく、この中で最もベテランの魔法師団員だ。

 彼女がこう言うからには、何かしら新人には気付けない問題があるのだろう。


「ブラッド・ベアがいる。こいつだけ倒そう」


 そう言ってミアが、街から5キロほど離れた場所を指した。

 確かに、Dランク魔物のブラッド・ベアがいるな。

 しかし……それの何が問題なのだろう。


 ブラッド・ベアは確かに少し珍しい魔物ではあるが、ここにいるのが異常というほどでもない。

 強さという面でも、この地図の範囲内でもCランクの魔物が10匹以上いるので、わざわざDランクのブラッド・ベアに着目する理由は、ちょっと思い浮かばないところだ。

 それとも彼女は、ブラッド・ベアに何か恨みでもあるのだろうか。


「いますけど……これってDランクですよね? 普通に冒険者に任せればいいんじゃないですか?」

「確かに強さは大したことがないが……ブラッド・ベアは嗅覚が鋭くて、人間を好んで襲う魔物だ。……被害者数という面で見ると、王国最悪の魔物の一角と言っていい」


 なるほど、戦う人間から見た強さと、一般人から見た危険度では話が別というわけか。

 俺たちの仕事は市民の安全を守ることなのだから、たとえ弱くても市民にとって危険な魔物であれば、率先して倒す必要があるんだな。なかなか勉強になる。

 魔法師団員として、見習うべき態度だろう。


「一刻も早く討伐したい。今すぐ出発しよう」

「了解です!」

「ああ。分かった」


 こうして俺たちは、ブラッド・ベアの討伐に向かうことになった。


 ◇


 それから少し後。

 俺たちはブラッド・ベアのいる場所を目指して走っていた。

 幸い、彼女たちも戦闘があるまでは魔力を温存するという方針らしく身体強化は使わずに走ってくれたので、魔力を持たない俺でもついていくことができた。


 だが途中で問題が起こり始めた。

 ミアがブラッド・ベアのいる場所とは少しずれた方向に走っているような気がするのだ。


 この中では最もベテランの魔法師団員である彼女が、ブラッド・ベアの場所を間違えるとは考えにくい。

 普通に考えれば、何かしら新人には及ばない理由があるのだろう。

 だが、その理由が思い浮かばない。


 少し考えた挙句、俺は本人に聞いてみることにした。

 今回はミアがいるので分からなくても問題ないが、もし理由が分からないままでいると、今後ミアがいない時に同じような状況に出くわしたとき、気付かないうちに何らかの失敗をする可能性があるからだ。


「ミア、ブラッド・ベアがいるのとは違う方向に走るのには理由があるのか?」

「……何を言っている? ブラッド・ベアがいるのは、あっちだろう?」


 そう言ってミアは、走っている方向を指した。

 魔力反応から推定できるブラッド・ベアの位置とは、だいぶずれた方向だ。


「あっちだと思うが……」


 俺はそう言って、ブラッド・ベアの魔力のほう……右斜め前を指す。

 どうやらブラッド・ベアは走っているようで、魔力反応はけっこうな勢いで右に向かって動いている。

 その動きを追っていると、ミアが俺に尋ねた。


「……指先が動いていて、どっちを指しているか分からないんだが」

「いや、魔物だって生きてるんだから、そりゃ動くだろ……」


 今ブラッド・ベアがいる場所は、最初に龍脈柱で探知した場所から4キロも離れている。

 ミアが差している方向が、ちょうど龍脈柱で探知したときの位置だな。

 2キロほど離れた場所なので方角が変わるのはゆっくりだが、ブラッド・ベア自身は時速60キロ近い速度で移動している。


 この動きを見ると、ブラッド・ベアが危険視される理由が分かるな。

 走るのが速くて行動範囲が広いので、人間と出くわす確率も高いのだ。

 その上、嗅覚も鋭いとなると……確かに討伐する判断は正解だろう。

 などと考えていると、ミアが口を開いた。


「待て、ネイトン……ブラッド・ベアの位置を、直接探知しているのか?」

「そうだが……それがどうかしたのか?」

「どうやって?」

「魔力で」


 俺の言葉を聞いて、ミアとネムが顔を見合わせた。

 ……俺は何かおかしなことを言ってしまったのだろうか?



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