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第10話 最強賢者、観測する

「や、やっと一息つけます……!」


 龍脈観測所の扉を閉めたところで、ネムがそう呟いた。

 だいぶ緊張が解けた感じの声だ。

 まだ任務中ではあるのだが……ミアの目がなくなると、だいぶ落ち着けるのかもしれない。


「魔法師団の団員から見ても、ミアは怖いのか?」


 俺はネムに、そう尋ねる。

 正直なところ、俺もミアのことは少し怖い。


 最初の模擬戦の時のような殺意は感じないが、模擬戦で彼女のメンツを潰してしまったことに変わりはないし、純粋に口調とかが軍人っぽくて迫力がある。

 彼女の前で無駄口を叩こうものなら、腕立て伏せ100回とか言われそうだ。

 魔法師団の場合、衛兵隊などと違った別の懲罰があるのかもしれないが。


「怖いっていうか、ちょっと緊張します……『軍人!』って感じがして……」


 どうやら彼女も同じことを考えていたようだ。

 魔法師団のメンバーから見ても、やはりミアは軍人っぽいようだ。

 まあ、魔法師団は普通に軍の機関の一つなので、軍人っぽいのは当たり前なような気もするが……そうでもないのだろうか?


「他の団員は、そんなに軍人っぽくないのか?」

「あんなに軍人っぽいのは、ヘルマン組だけです!」

「……ヘルマン組?」


 初めて聞く名前が出たな。

 魔法師団の中にも、色々と組織があるのだろうか。


「ちょっと前まで、魔法師団にはヘルマンさんっていう、すごい強くて怖い団員さんがいて……二つ名がそのまま『鬼のヘルマン』なんです。その人の部下だった人たちは、みんなあんな感じですね」


 なるほど、それでヘルマン組か。

 やはり仕事のスタイルなどは、入ったばかりの頃に受けた教育の影響が大きいのかもしれない。


「っていうかヘルマンさん、お知り合いじゃないですか?」

「……え?」


 一応、ヘルマンという名前には心当たりがある。王国ではよくある名前だからな。

 だが……そんな怖いヘルマンさんは知り合いにはいない。

 俺の祖父もヘルマンという名前だが、彼はとても優しいしな。

 よく遊びに来てはお土産に魔石や魔法書をくれるので、幼い頃などはヘルマンおじいちゃんが来るのを心待ちにしていたものだ。


「ヘルマン=マギウスさんっていう人なんですけど……」

「……俺の祖父がそういう名前だけど、めちゃくちゃ優しいぞ……?」

「あ、じゃあ人違いかもしれません。マギウス家っていくつかありますし、別のマギウス家の人かな……?」


 恐らく、そういうことだな。

 マギウス家は歴史ある家だけあって、分家とかも沢山あるようだ。

 どこかの分家に、祖父と同じ名前の人がいるのだろう。


「とにかく、ヘルマン組の人たちの前では気をつけてください! 変なことすると、腕立て伏せさせられちゃいます!」


 ああ、やっぱり魔法師団でも懲罰は腕立て伏せなんだな。

 魔法使いの組織なので、体力とは関係ない訓練とかがあるのかと思っていたが……よく考えると魔力は無駄遣いできないので、やはり懲罰は体に刻み込むということなのかもしれない。

 魔法師団流というよりは、ヘルマン組の流儀かもしれないが。


「あ、でもネイトンさんは大丈夫だと思いますよ! 『ネイトンは魔法界の至宝だ! 彼は私が守る!』ってミアさんが……」


 ミアがそう言おうとしたところで、龍脈観測所の扉が開いた。

 そして、中からミアが顔を出す。


 魔物の分布図を書き上げたにしては早すぎる。

 単純に、あれだけ広範囲に渡る地図を埋めるだけでも、ものすごい情報量だ。

 仮に手元に完成品の魔物分布図があり、それを書き写すだけでも、30分はかかるだろう。


 にも関わらず、彼女が出てくるまでに5分と経っていない。

 もしや噂話の気配を察して、早めに出てきたのだろうか。


「何を話していた? 私の名前が聞こえた気がしたが……」

「な、何も話しておりません! ミア先輩!」


 ネムは直立不動の姿勢で、ミアにそう答える。

 ……ミアが俺を守る? 俺が魔法界の至宝?

 恐らく、聞き間違えだろう。


「よろしい。では観測を行いなさい」


 どうやらミアは、本当に観測を終えてきたようだ。

 あまりにも早すぎる。


 ……もしかしたら彼女は手書きではなく、転写魔法か何かで地図を完成させたのかもしれない。

 魔物分布の把握自体には5分とかからないので、書き込み作業さえ魔法で終わらせれば、今の時間で間に合うはずだ。

 魔力の無駄遣いは禁止されていたはずだが、任務のために必要がある内容なら、使っても問題ないはずだしな。


 だが、そうだとすると俺は厳しい立場になるな。

 なにしろ魔力がないので、転写魔法なども使えないのだ。

 そうすると一人だけ手書きでちまちま地図を埋めて、先輩方をお待たせすることになってしまう。

 腕立て伏せの刑に処されても文句は言えないだろう。


「了解です!」


 あまりの速さに驚く俺を置いて、ネムがそそくさと龍脈観測所に入っていった。

 どうやらミアから隠れるためには、龍脈観測所に入るのが一番いいと考えたようだ。


 扉の外には、俺とミアが2人取り残されたが……下手に口を開かないほうがいいだろうな。

 任務中に私語をした罪で、腕立て伏せをさせられたくはないし。



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