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第26章 大ピラミッド

 フランソワはナポレオンからついてくるように言われた。


 エジプト ―― クフ王の大ピラミッドの前に来ている。


 黄金の砂漠の果てに、そびえ立つ巨影。

燦々と輝く太陽を受けてもなお黒々とした存在感を放つその建造物は、人の手によって造られたとは到底思えぬ威容を誇っていた。

 幾何学的な完璧さ。永遠を思わせる圧迫感。


 フランソワは、このエジプト遠征を心の底から楽しみにしていた。なぜなら、ついにピラミッドを見ることができるからだ。

 彼女は高級貴族の御令嬢として育った。父はフランス王国に名を轟かすリシュリュー公爵。

 豪奢な屋敷で育ち、幼いころからあらゆる習い事を課されてきた。音楽、舞踏、語学、歴史……なかでもフランソワが心を惹かれたのはエジプトの歴史であった。


 ナイルの流れとともに築かれた古代文明。ファラオの栄華と、神秘の象徴たるピラミッド。

 書物で読んだ数々の伝説に胸をときめかせ、いつか必ずこの目で確かめてみたいと願い続けてきた。

 そして――数奇な運命のめぐりあわせにより、彼女はその夢を果たす舞台に立っている。


 本来なら貴族の娘としてサロンで華やぐはずの人生。だが革命と戦乱の渦に飲み込まれ、彼女は男装の兵士として戦場に身を投じることになった。

 幾度かの戦いで功を立て、今では軽歩兵の小隊 ”ラ・ルーブ・ブランシュ・レジョン” を率いる小隊長として、あのナポレオンと肩を並べて戦うまでになっていた。

 だが、アンドレを失ってから、虚しい闘いの日々になっていた。その中で唯一の希望がエジプト遠征だったのだ。


 軍は海を越え、砂漠を渡り、ついにピラミッドの地へと到達したのだ。

 大ピラミッドの前で、ナポレオンは有名な演説を行った。


 「兵士たちよ。四千年の歴史が諸君を見下ろしている!」


 その声を聞き、兵たちは歓声を上げた。フランソワもまた胸を震わせ、全身に血がたぎるのを感じた。

 そのすぐ後だった。


「今夜、0時に……」

 人波から離れた場所で、ナポレオンがフランソワの耳に囁いた。

「クフ王のピラミッドに入る。お前も来い」


 心が大きく揺さぶられた。

 あのピラミッドの内部に入れるのだ。夢にまで見た光景。しかもナポレオンと共に。

 だが同時に疑念も膨らんだ。なぜ夜中に? なぜ二人だけで? 副官のルイにすら知らせていないらしい。

 秘密の響きを帯びた誘いに、フランソワの胸は不安と期待でいっぱいになった。

 ……

 やがて深夜。

 砂漠の風が静まり返る頃、フランソワはトーチを掲げてナポレオンと共にピラミッドの入口へ向かった。

 周囲には誰もいない。兵の姿もなく、ただ巨大な石塊の沈黙が彼らを飲み込む。


 狭い通路を進むと、石の壁にトーチの炎が揺らめき、古代の陰影を描き出した。

 乾いた空気がひんやりと肌を撫で、足音が響くたびに永遠の静寂を乱す。


 やがて二人は玄室に辿り着いた。

 そこには石棺が鎮座し、まるで訪問者を待ち構えるかのように不気味な存在感を放っていた。




  第26章 秘密の儀式 に続く


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