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第19章 考えるな

 手紙か……?  

 俺は北陸新幹線の窓の外を眺めながら、思わずため息をついた。

 ガラスに映る自分の顔は、どこか疲れ切っているようにも見える。


 手紙なんて、これまで一度も書いたことがない。なのに、妄想の中で俺は手紙を書いたのだ。

 いや、正確には――フランソワの目を通して、その手紙を読んでいた。


 俺が考えたわけじゃない、と信じたい。

 けれど、フランソワの兄から届いた手紙の文面は、俺の頭から生まれたものらしい。


 まさか……。

 そんな文才……俺にはない。

 あのような文面……俺には書けない。


 もしあったのなら、大学に落ちることもなかったはずだ。半年も部屋に引きこもって、現実から目を背けて過ごすこともなかったのではないか。

 そう思うと、苦い笑いがこみあげてくる。


「俺って、まだ本気出してないやつ……」


 小さく呟いて、自分でもその声に白けた気分になった。

 それでも今、俺は東京駅から北陸新幹線に乗っている。

 ほんの少し前まで布団の中でスマホばかり(いじ)っていた俺が、こうして列車に揺られている。


 たいしたことのない行動かもしれないが、俺にとっては大きな一歩だった。

 東京駅での乗り換えだって、スマホで検索した通りに動いただけだ。

 シミュレーションなんてしなかった。ただAIの指示に従っただけ。


 『考えることを放棄したからこそ、ここまで来られたのかもしれない』


 やることを前もって考えすぎると、どんどん面倒になって、最後には気分が落ち込んで動けなくなる。だから、現実の行動ではできるだけ考えないようにしている。

 その代わり、妄想の中ではとことん考える。フランソワの物語を練るときみたいに。

 俺はそっちにエネルギーを全部使ってしまうのだろう。


 けれど、と――現実の俺は今、半年も引きこもっていた日野市の家を出て、祖母の実家がある羽咋市を目指している。

 サイクリングロードを歩き、バス停まで行って、バスに乗って豊田駅へ。そこから中央線に乗り東京駅にたどり着いた。

 そして新幹線。……気づけば、ここまで来てしまった。


 その間ずっと、俺の頭の半分以上は妄想に浸っていた。フランソワの物語に。

 考えればおかしな話だ。

 俺の身体は確かに動いていた。歩いて、電車に乗って、改札を通って。現実をこなしながらも、意識はほとんど空想に奪われていた。

 それなのに、ちゃんと目的地に近づいている。


『人間って、不思議なもんだ……』


 窓の外を眺める。

 山や川、田んぼや畑。時折、小さな町が現れては遠ざかっていく。光景が流れるたび、瞼が重くなっていく。

 半分眠ったような感覚の中で、俺はまたフランソワの物語を練っていた。

 話を練って妄想し、ある意味、外側から眺めているだけだ。なのだが、次第に俺はその物語の中へと引き込まれていき、気がつけば、フランソワとして息をしている。



第20章に 決戦前夜 続く


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