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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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裏切りの足は、ただ貴女へ向かう

裏切りの足は、ただ貴女へ向かう

溢れ出た涙が演技だったのか、自然に出たのか、それは自分でも分からなかった。

『母親の調子はどうだ?』

『あまり良くはありませんが、何故ご主人様がご存知なのですか?』

『薬が欲しくないか?』

『薬は何とか手に入るだけ使っております。』

『アンバーグリス。高価な薬だ。万病に効くという。』

知っている。何度それがあればと考えたか分からない。

『....存じております。』

『王弟のことは知っているか?』

『勿論です。』

『高価な薬すら香に使える身分を持った男が、とある楽師に入れ込み、侍女を探しているそうだ。その楽師を連れて来れたら薬を褒美に与えよう。』

『連れて来て、どうなさるのですか?』

『それはお前が知る必要のないことだ。』

『....出来ません。その楽師の方は何の罪もないのでしょう?』

この家の主人の不吉な噂。直に見たことはなくとも時折感じるゾッとするような笑み。

『....残念だ。この話をしてしまった以上、お前をこれ以上ここには置けない。また路頭に迷うしかないな。』

『そんなっ....それは困ります!』

『それなら出来るだろう?それに....その楽師は王弟の寵愛を受けお前が必死になって母の薬代を稼いでいる間贅沢をしているんだ。』

仮面の下で、どんな表情をしていたのかは分からない。

その通りだと、思ってしまった。

だが実際に会った楽師はエティが想像していた楽師とは違っていた。

贅沢を好んでいる様子もなく、響かせる音は澄んでいて美しい。王弟が寵愛しているというのは本当だと直ぐに分かった。セラはまるでエティを妹を見るかのような目で見て、笑ってくれた。セラに仕えることを嬉しく思っている自分がいた。演じなければ。そう思っていたのに途中から演技ではなくなった。

罪悪感で胸が痛んだ。でもやらなければ路頭に迷い、家族は苦しむことになる。

『弟を探しているの。』

この方もまた、家族のために苦しんでいたのだ。

そう知った時には遅かった。言われた通り岩陰に連れて行った。

セラの消えた影を見て胸に重い後悔が降って来た。それでも、もう遅い。

『約束通り事を起こしました。どうか――――』

『女は逃げたそうだ。無事に連れて来れたらという約束だっただろう?』

『そんな........』

『何だ、あの女に情でも湧いたのか?つまらなんな。これ以上お前はここに置いておけん。さっさとここを出て行け。』

残りたいとすら思わなかった。これは自分に訪れた罰なのだ。優しい罪なき人を、裏切ってしまった罰。

逃げたなら、無事に離宮に戻ったのだろうか。

それなら許されなくてもいい。

(セラ様.....)

屋敷から出た足は、離宮に向かっていた。

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