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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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主の絶望に灯す光

主の絶望に灯す灯

「殿下は?」

マリウスが珍しく焦った様子を隠すことなく歩いて来た。護衛に出てそのまま捜索に向かっていた彼が戻って来たということは何か見つかったか、今日は切り上げるかのどちらかだ。

「執務室で、1人にしてくれとのことです。何か進展が?」

「アップハング付近の獣道で複数の死体と血痕、足跡が見つかった。森に向かう足跡があったことからその付近の捜索を徹底的に行なっている。」

「知らせるべきでしょうか。今の殿下はあまりにも不安定です。」

「少しでも希望を持った方がいいだろう。私の首を飛ばすことで気休めになるならそれでもいい。今回の件は、私の失態だ。」

「流石にマリウス様の首を飛ばすなど言い出せば私が全力でお止めします。」

「私は殿下の光を守れなかった。仕方のないことだ。とにかく執務室に向かう。」

マリウスが主に忠誠を誓っていることは知っている。だが首を飛ばせばいいと事も無げに言う彼の目に灯る一種の狂気は、クシェルも見たことがなかった。

「殿下。」

「マリウスか。何かあったのか?」

マリウスに目を向ける主の目は虚ろに揺れていた。

「私を、責めないのですか?」

「お前を信頼して任せたのは俺だ。行かせた俺に原因がある。それより何かあったのか?」

淡々と、自責に怒りも忘れた主が、セラ様を失えばどうなるかなど明白だった。

「アップハング付近の獣道で複数の死体及び血痕、足跡が見つかりました。続いていた足跡から近くの森を徹底的に捜索させています。」

主の目が微かに光を灯す。希望を持ちたいのに、持ちたくない主の反応は、至って冷静だった。

「そうか。暗くなる前に探せ。今日見つからなければ.....」

「分かっています。必ず、見つけてみせます。殿下の光を、私は失わせるわけにはいきません。」

「....お前が、これ程俺に情を持ってくれているとは思わなかったな。」

「....私は、殿下の幼い時から殿下を見ておりました。それは殿下ご自身がご存知でしょう。」

マリウスが優しく微笑む顔を見たのは初めてだった。

虚ろに揺れていた主の目に、光が滲んだ。

「.....そうだったな。頼むぞ。」

執務室を出たマリウスはいつもの顔に戻っていた。

「私は現場に戻る。クシェル、殿下をお支えするのだぞ。」

「....正直、マリウス様でなければあの状態の殿下に希望を持たせることは出来なかったでしょまう。」

「何を言う。私はあの女性のことはよく知らないが、かつての殿下なら私の首を飛ばしていた。変えたのはあの女性だろう。」

「...ですから私も見つかって欲しいのです。」

「必ず見つける。それが生きた状態であることを祈ろう。」

「そうですね。」

冷静でいたつもりだった。マリウスを見て、自分が焦っていたことを思い知らされる。

(まだまだ私も未熟だ)

支えるべき方の顔を想い、祈りを捧げていた。

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