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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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慣れた痛みが教える生の実感

慣れた痛みが教える生の実感

身体が、揺られている感覚を感じた。

徐々に戻る意識に、状況を思い出していく。

『セラ様、申し訳ありません。』

信じる、べきではなかった。人を信じてはいけないことぐらい分かっていたはずなのに。

レオに出会って、幸せの味を知って、緩んでしまった自分を後悔したところでもう遅い。

手は縛られている。口にも布が巻かれていて、そう簡単に抜け出せそうにない。

ゴト...ゴト...と車輪が石を踏む音から考えるに恐らく馬が引く荷の中の箱に入れられていると見て間違いなさそうだ。

殺すつもりはないらしい。敵はセラを殺すより生かす方が利用価値が高いと考えたのだろう。

ということは連れていかれてしまえば脱出はまず不可能だ。

ならばここからどうにかして出るしかあるまい。

(ナイフ....は取られてない。)

捕えた者もまさか楽師が服の中にナイフを仕込んでいたとは思わなかったらしい。

(もう....少し....)

狭い空間で身を捩り、ドレスを捲り上げれば何とか届いた刃。

(これさえあれば....)

ビリッ

破れるドレスなど気にしていられない。焦るな。そう言い聞かせながらナイフで縄を切っていく。擦れる縄が皮膚を焼いていくようだ。

ようやく自由になった手は赤く腫れていた。口に巻かれた布を取り、ここからどうすべきか考えていく。

(着くタイミングで飛び出て逃げ出すか、それとも箱をこじ開けるか....)

どちらも賭けだ。周りに何人いるかも分からない。だがどこに辿り着くかも分からず、着いた場所に兵がいないとも限らない。となれば箱をこじ開ける方がリスクは低いだろう。

箱は木箱だ。それなら蓋の目地にナイフを入れれば、開けるのはそう難しくない。

やるなら、急いだ方がいい。眠らされてからどれだけ時間が経ったのかも分からない。遠くなればなるほど、逃げるのは困難になる。

微かに頭が痛んだ。嗅がされた薬の影響だろう。

(....やるか。)

箱は僅かな音を立てて開いたが、音は走る馬の音に消えた。

まだ、気づかれていないはずだ。

しかし、重い。どうやら上にも箱が載せられているようだ。

動かせば派手に音が鳴る。そうなればーーーー

(気づかれる。だけどそれ以外方法はない。)

こじ開けた反動と共に、箱が飛んだ。

「何だ!」

「女だ!どうやって出て来た!」

どうやら商隊に見せかけるつもりだったらしい。15人ほどいる。

(これは....多い。)

向かって来た男の喉元にナイフを突き立てた。顔に飛び散った血飛沫の温度の感傷に浸っている暇などない。

殺した男の剣を引き抜くと、もう1人を切り、走り出した。

この間襲って来た男たちは自ら舌を噛んで死んだ。セラが戦えることは報告になかったのだろう。慌てた男たちの隙間を駆け抜けた。

「追え!」

「逃すな!」

足に、小石が突き刺す感触。荷馬車が通っていたのは獣道。人などいない。道にいては不利だ。近くに見えた森の中を駆けながら、追っ手の声が聞こえる。

「森に入ったぞ!」

このままでは埒が明かない。足の速さではセラは男たちには敵わない。

(1人ずつ、減らしていくしかないか....)

足を止め、木の影に隠れた。

「近くにいるはずだ!探せ――――」

立ち止まった男の背を刺した。周りの男たちが気づき、向かって来るが森の中では一気には囲い込めない。

「また見失ったぞ!」

焦る男たちの声。細い木々を抜け、隠れては殺す。

研ぎ澄まされた感覚に、枝が折れる音と葉が頬を掠める感触。

嫌になる。あの幸せな時間よりずっと――――

(生きてる。そう感じる私はイカれてるんだろうな。)

また1人、男を切った。

(あと5人....)

もうすぐ森を抜けてしまう。息も上がってきた。早く片付けてしまいたい。

敵側もセラの戦略に気づいて慎重になってきたいる。これ以上思うようにはいかないかもしれない。

ならば。

(抜けて正面からやるしかないか。)

多少傷を負うのは仕方がない。レオは嫌がるだろうけれど。

(死ぬよりはマシだということで諦めてもらおう。)

森を走り抜けた。抜けた先の景色に、絶望を覚えた。

「これで逃げられねえなあ。」

「ここまでやるとは思ってなかった。だが抜けた先が崖だとは思ってなかっただろ?」

「諦めて捕まってくれれば痛い目に遭わないぜ?」

男の言う通りだ。まさか抜けた先が崖だとは思わなかった。

チラリと崖の下を見やる。高い。下には森。

落ちれば無傷では済むまい。

捕まるか、落ちるか。

勝利を確信した男たちは油断と共に武器を下げた。

(そんなの、決まってる。)

「残念、痛いのなんて、慣れてるの。」

余程打ちどころが悪くなければ死にはしない。

こんなのに捕まるくらいなら。

「なっ....おい!」

崖から、身を投げた。

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