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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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砂浜に残った嘘と涙

砂浜に残った嘘と涙

「セラが海に出かけるためその護衛をお前に任せる。何名か選んで連れて行け。」

「承知しました。」

主が入れ込んでいる女。その姿を初めて見たのは西部で賊との戦の時。柔らかで凛とした、光と影の矛盾を抱えたような目を持った女。

離宮で楽師として過ごしていたその女を、何度か目にした。変わらない目と、少しだけ柔らかくなった雰囲気。戦での強さからは想像もできなかったほど、響かせる音は美しい。

マリウスはその女の事情は何も知らない。

名前と、強さ。そして主が毎晩通い、傷を負えば人を殺しかねない程惚れ込んでいるということだけ。

マリウスは主を信じている。主はマリウスよりも随分年下だ。父王に仕えていたマリウスは幼い頃から王子を何度も目にしていた。

聡明で人を見透かすような目。兄アーノルトとは違う、どこか脆さを纏う第二王子。

そんな彼が軍を持つ時、マリウスを引き抜きたいと言った時は少なからず驚いた。

「何故私を?」

「お前は俺を見ていただろう。お前は裏切らない。」

マリウスが主を見ていたように、彼もまた人に狙われ、利用されながらマリウスを見ていたのだ。常に冷静で、人を転がす主を乱す唯一の女。

その存在に危惧したことがないと言えば嘘になる。だが同時に主が幸せになることを望んでいた。兄王のために手を汚し、年々冷えていく一方だった主の目が、人としての温度を持つようになった。

この国のことを思えば、女の存在は危険視されるべきだ。だが主を思う一個人として、その女は守らねばならなかった。

海へ向かう馬車は平穏に満ちていた。楽しそうな女同士の会話を聞きながら、このまま何も起きないことを願っていた。

護衛があまりにも近くにいては楽しめないからと言う配慮が仇になった。突然侍女に手を取られ死角に入ってしまったセラが、出て来ないことに気づき向かった時にはその姿は消え、咽び泣く侍女の姿だけが残っていた。

その涙が後悔の涙なのか、マリウスには判断がつかなかった。

「セラ様が、何者かに....」

「すぐに殿下に伝えろ。女を抱えてそう遠くへは行けないはずだ。徹底的に探せ。」

だがその予想に反してその姿は忽然と消えていた。

主の目が、また冷えてしまう――――

自分の首よりも、そのことが気になった。

地味に初期から声だけ登場していたマリウス。

やっと心の声が聞けました。

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