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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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すれ違いの果て、交わる本心

すれ違いの果て、交わる本心

レオは、焦っていた。

何か、何かがおかしい。

恋人になった直後、セラが泣いた。その後話すことを嫌がったセラによって話をすることのないまま関係を続けている。

やはりそれが良くなかったのだろうか。

だが何かきっかけがあった気がする。

あの日、レオが偶にはと部屋に誘った日からだ。体調が悪いのだと思った。だがその日から感じる微妙な距離感。

あの後、忙しかった。仮面の男の素性を調べるも成果がなく、アラリックからの招待をどうするかなど問題の山に追われてセラとの時間もゆっくり取れていない。

部屋に誘ったのが嫌だったのだろうか。風呂に入っている間待たせたから?

女相手にこんなに苦心したことはない。簡単に掌で操れるものだと思っていたのに。

「クシェル、俺は何をしたんだろうか...」

「部屋に一人で待たせたんですよね?」

「ああ。」

「部屋を見ても構わないと言ったと?」

「好きにしてていい。リュートも弾いて構わないと言った。」

「そのリュートの近くに置きっぱなしにされていた物があったように思いますが。」

「お前何言って.................あ。」

完全に忘れていた。もしあれをセラが見たとしたら.....

完全に青ざめたレオを見てクシェルが更に追い打ちをかけた。

「あれをセラ様が見たとしたら今頃自分は出て行かないといけないと考えていてもおかしくないですね。セラ様の性格的に。」

「いつ出て行くつもりなんだ......」

「麻薬の密輸商人は捕まり、これ以上ここに留まる理由はありません。弟の件もまだ伝えてないんでしょう?でしたら殿下はアテにならないと判断してここを出るタイミングで去るつもりでは?」

正にセラが考えそうなことだ。セラが自分の元から去ってしまう。考えただけで死より恐ろしいその出来事に居ても立っても居られず席を立った。

「クシェル」

「....今日は多めに見ましょう。どうせいても仕事になりません。」

「お前ほど有能な部下はいない。頼んだぞ。」

「セラ様が来てから確実に上司としては成長してますね。」

クシェルの皮肉すら気にならないほど焦りが心を支配していた。邸内を主である自分が走るわけにも行かず、ひたすらに歩を早める。

「エティ、セラは?」

「セラ様なら書庫で本を読んでおられます。」

「そうか、分かった。」

書庫では例の恋愛小説を読み終え、違う小説を読んでいるセラがいた。

「セラ」

相変わらず呼びかけても返事がない。

「セラ」

肩を叩き、ようやく声を上げたセラの顔は困惑している。こんな時間に、わざわざ書庫まで来たレオが切迫した顔をしているのだから当然かもしれない。

「レオ様、何かあったのですか?」

「ああ、あった。だから部屋に来てくれないか?」

「?分かりました。」

触れていないとセラが行ってしまう。そんな気すらして手を引いたまま部屋に向かう。

部屋に入り、手を離すと何があったのかを真剣に思案しているセラの顔が目に入った。

部屋の隅には、クシェルの言う通りの物が置いてあった。それを手に取ると、目を伏せたままのセラの元に戻る。

「単刀直入に聞く。これを見たのか?」

見てなければ自爆もいいところだ。だが今はそんなことを気にしている場合ではない。

「...確かに見ましたが、それがどうかしましたか?」

....騙されるな。あの役者ぶりを忘れてはいけない。

「これを何だと思ってる?」

「指輪に見えますが。」

「....誰の?」

「レオ様の婚約者様の物だと。」

やはりか。顔色一つ変えないセラに何を考えているのかと問いただしたくなる気持ちを抑える。

「違う。これはお前のものだ。」

「......私の?」

困惑を通り越して呆然としているセラを見てさっきの無表情がやはり強がりだったことを知る。

「ああ。勘違いしているんじゃないかと思った。」

「.....何故、指輪が?」

「この間愛人として出てきてもらうために宝飾品を買っただろう?その時につい買ってしまったんだが....よく考えたら指輪は使えないし、婚約する時はもっといい物を渡す。それでタイミングを逃してな。放ったらかしになっていた。」

「婚約って....何を言っているのですか。」

これも思った通りだ。やはりセラはレオと結婚の未来を一つも考えていなかったらしい。こんなことなら無理にでも話しておくんだった。

「....なあセラ。お前が話したくなさそうだったから何も言わなかったんだが、やはり話しておいた方がいいように思う。」

「....何をでしょうか。」

「....セラフィーネ・ヴィクトリア・ベルシュタイン。」

セラの、顔色が変わる。

「.....ご存知でしたか。」

「悪いとは思った。だがお前の素性を知らなければ結婚の手立てがない。それから....弟、ライの居場所も分かっている。」

「どこに.....」

「少し前に見つけた。王都の治療院だ。お前が弟の居場所を知ればお前は俺の元から去ってしまう。そう思って全てが整ってから言うつもりだった。俺の自分勝手な想いでお前を不安にさせた。怒っていい。」

「それは....整うってどういう.....」

「5年前、王はお前の養子の証書に印を押している。火を放った件も不問とし、弟の身の安全を保証することも了承を得ている。だからこの件が片付いたらベルシュタイン辺境伯の元へ行ってお前を嫁に貰えるよう頼みに行くつもりだったんだ。」

多すぎる情報に頭が追いつかないのだろう。セラは発する言葉もなく呆然としている。

「順番がおかしくなってしまったが...俺は本気でお前と結婚するつもりだ。だから、俺の元から去ろうとしないでくれ。」

「本気....なのですか。もしエルシウス様が納得しなければ....」

「正直火の件などお前の母親がやったことにすればいい。そんなことよりベルシュタイン家にとったら王家との婚姻関係を持てるメリットの方が多い。交渉材料も用意してある。ほぼ間違いなく辺境伯は受け入れるだろう。」

「頭が....追いつきません。私はレオ様が婚約されたら去るつもりでした。それにライも見つかってるなんて.....」

抱きしめたセラは一瞬身を硬くした後にレオの背に手を回した。

「悪かった。お前が泣いた時に言うつもりだったんだ。お前を抱けないのは万が一妊娠でもすればお前の名誉が失墜し、結婚できなくなる。傷なんか、どうでもいい。」

腕の中で震えて泣くセラを見て、守ってやりたいのに傷つけてばかりいる自分が嫌になる。

「セラ。全てが上手くいったら....俺と、結婚してくれるか?」

顔を上げたセラの愛しい泣き顔。涙すら、美しく感じる自分はもう彼女に溺れている。

「もし、上手く行かなければ?」

「その時は王家を出るか。」

「それは....なりません。」

「知ってる。お前がそう言うと思ったから全てが整うまで何も言いたくなかったんだ。大丈夫だ。上手くいく。俺を信じると言っただろう?」

「確かに....言いました。」

「俺との結婚は嫌か?」

「そんなわけ....ただ、あまりにも過ぎた願いだと思っていたのでちょっと現実味が....」

「過ぎた願いなわけがあるか。俺は最初からそのつもりだったんだぞ。お前が信じなかっただけで。」

「信じろと言う方が無理な話です。」

「まあそうかもな....とにかく。これ以上このことで気を病むな。どんな手を使ってもお前を手に入れる。それは変わらないんだ。」

「私は....火を放ったのです。イザーク様を裏切って。あの時、全てを捨てる覚悟を決めました。」

「母親がイザークを暗殺しようとしたんだろう?お前は悪くない。」

「私は弟を...ライを守るために出たのです。自分勝手な願いで恩のあるベルシュタイン家を捨てて....今度はレオ様と結婚するなど...許されることではありません。」

「誰が決めたんだ?」

「え?」

「許されないなど、誰が決めた?」

「それは....誰もが思うことで...」

「少なくとも俺は思わない。王ですらそうは思っていない。この国で1番の裁量を持つ王がだ。お前は全てを負い、守ってきた。負った傷を恥じながらも人を傷つけようとしたことのないお前が幸せになって、何が悪い。」

「でも...私には、そう思えないのです。」

難しいことは分かっていた。簡単に受け入れるにはセラは傷を負い過ぎた。

「分かってる。だから、少しずつその身に刻め。俺に愛され、幸せになる自分を許すことを。俺といることが嫌でないのなら。」

「嫌なわけないではないですかっ....!レオ様といると、苦しくなります。私が私じゃないみたいで。なのに顔を見ると嬉しくなって、触れて欲しいと思う私を愚かだと思っても、止められないのです。」

「それはおかしいことじゃない。お前が、俺を愛してくれている証拠だ。愚かに、素直になれ。誰もお前を咎めたりしない。」

「レオ様が他の女性と話していると心がざわつくのです。こんな醜い想いで、醜い身体を持った女に対しても、そう思ってくださいますか?」

縋るように言うその目は本気だ。不謹慎だろうか。彼女のその言葉が嬉しいなんて。

「セラ。俺はお前が思う以上にお前に溺れてる。お前が嫉妬してくれたら俺は嬉しい。お前についた傷はなければいいと思う。だがそれはお前が苦しんだ証拠だからだ。お前の身体が無数の傷に塗れていようと、お前を美しいと思うことに変わりはない。お前だって、俺の傷を見て醜いなどと思わないだろう?」

「...思いません。レオ様も、嫉妬するのですか?」

「....お前こそ俺の醜い部分を知らない。俺がどれほど冷たく、心の狭い男なのか。お前にそう思われたくなくていつも必死だ。情けないけどな。」

「....私は、レオ様の醜い部分を見ると安心します。」

「お前はいつも矛盾してるよなあ。....俺もだ。お前が泣いたり、汚れた感情を持っている方が安心する。.....お互い、もう少し素直になるか。」

「....それがいいかもしれませんね。」

やっと笑った。綺麗に見せたいと願うのは恋をすれば自然なのだろう。それでもそれ以上にお互いを知れたらいいと思う。

「泣いてる顔はそそられるが、やはり笑った顔が1番綺麗だな。」

濁った空がようやく晴れた。バラバラに別れていた道の中に一筋、光が見えた気がした。


 

これで平和が訪れるんでしょうか。

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