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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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動き始めた疑いの線

動き始めた疑いの線

用意されている待機室へ戻ると顔に不愉快と書いてあるレオが椅子に腰掛けた。

「あの男、セラにまで手を出すとはな.....」

「ある意味いい度胸といいますか変わっているといいますか」

「昔は本ばかり読んで遊びもしないつまらんやつだったんだ。それがあんなのになるとは。」

「貴方様にいつも揶揄われて怒ってましたよ。報復では?」

「揶揄ってたんですか?」

「ノリが悪いからついな。若気の至りだ。」

「案外根に持ってるんですかねえ」

「....俺の過去の悪行でセラが狙われるなら俺のせいだな。セラ、俺を殴れ。」

「何を言ってるんですか。それよりメモを渡した方とはお話しできましたか?」

「ああ。皆最近商人を変えたそうだ。調べてみるが同じギルドの商人である可能性が高いように思う。何人かの商人を紹介してもらえるよう頼んできた。」

「悪くないですね。思ったよりも多いですが。」

「症状が悪化しているものはパーティーにすら参加できていないでしょう。欠席したものも併せて調べるべきかと。」

「そうだな。セラ、あれで全部だったか?」

「まだ見極めきれないものが何人か...特にあの華やかな令嬢....ローズゴールドのドレスの方」

「ああ、グラテシアか。」

「ご存知なのですか?」

「ご存知も何も俺に媚薬を盛ったのはあいつだ。」

「ああ.....なんか納得しました。」

「お前になんぞ興味ないと言えば固まって放心してたがな。なんだ?実はあいつも麻薬なのか?」

「分かりません。ただ、微かな震えと何かに怯えているような目を時折するのです。中毒症状とは少し違う気もするのですが、気になりました。ドレスの話をする時もあまり嬉しそうではありませんでしたし。」

「そうなのか?」

「あれだけ社交界の中心にいる方です。ドレスもてっきりお好きでご自慢されるのかと思いきや非常に控えめで、沈んでらっしゃるようでした。」

「それは珍しいな。グラテシアと言えば社交界の華と呼ばれる女だ。それこそいつもはドレスだの宝石だのうるさいぐらいだがな。」

「まあ青年たちに囲まれて多少立て直してはいたようですが。」

「ふむ。正直不愉快だが一応声はかけてみるか。後は適当なところで帰るぞ。遅くまでやってられん。」

「承知しました。」

「セラ、お前はここに残っていろ。またあの男にでも声をかけられたら今度はあいつの腕を折ってしまう。」

怖いところは本当にやりかねないところだ。いつも恐ろしく冷静なレオだが妙に直情的なところがある。

「それは困ります。他の判定出来なかった者はどうします?」

「俺が声をかけておく。商人に変化があったなら当たりだろう。」

「分かりました。」

レオとクシェルが退室するのを見届けると息を吐いた。

『美しいお嬢さん』

思い出しただけで鳥肌が立つ。同じ美しいの言葉で何故こうも違うのか。

あの男のことは忘れよう。金輪際会うこともあるまい。

もう一度整理しておこう。

賊が軍を成し、反乱軍を形成していた。裏には商人と貴族。貴族の正体は未だ不明。

とある商人から軍部長を通してレオに麻薬が渡されそうになった。

密輸ルートが隣国の王子から送られ、そこを辿るととあるギルドが浮上した。

貴族の中に最近商人を変えた者が複数人。

狙われたのはセラで恐らく賊はコアルシオンの者。

カルディアとコアルシオン双方で麻薬を流出させたのは互いの国だと噂が広まり、開戦を望む声が広がっている....

これで商人を捕まえ、その声が止むのならいい。

だがこれを意図的に起こした人物がいるのなら――――

事はそう単純ではないかもしれない。

それに.....

何故賊はあの日レオとセラが街に出ることを知っていた?

ずっと引っ掛かっていることだった。

あまり考えたくないが可能性としては.....

「帰るぞ。」

そう声をかけたレオの顔はいつになく疲れている。

「はい、すぐに支度をします。」

挨拶を済ませ、馬車に乗り込んだレオは何やら考え込んでいるようだ。

「...何かあったのですか?」

「...いや、グラテシアという娘の話をしていただろう?それで話しかけてみたんだが...」

『先日は世話になった。その後はいかがです?』

『ああ、殿下....。どうも、ありませんわ。殿下もお変わりありませんこと?』

『お陰様でな、アイルデール卿はどうされている?あの事件以降姿を見ていないが....』

「そこから急にグラテシアが硬直してな。話にならなくなった。俺も媚薬を盛られた相手にそこまで優しくしてやる気にはならんから適当にそこらの男に預けて来たんだが....」

「事件?」

「数年前だ。アイルデール家で爆発騒ぎが起きた。その件でアイルデール卿本人は怪我を負ったと聞いている。だがそれ以降表には顔を出さなくなった。娘の方は有名だが。」

「奥様は、おられないのですか?」

「10年ほど前から姿を見なくなった。病気との噂も、精神を病んだとの噂もある。」

「なるほど....,アイルデール卿とは、どのような人物なのですか?」

クシェルが横から説明してくれた。

「一言で言うと食えない男でしたね。表向き愛想も良く頭も回りますが何を考えているのか読みにくい。一度奇妙な噂が出回ったこともありましたね。」

「噂ですか?」

「ああ。何でも動物を食べるためではなく弄ぶとか。終いには幼い子供にまで手を出したとの噂も立ったが真相は分からん。」

「火のないところに煙は立たぬと言いますが...」

「そんな時にあの爆発事故があったんですよ。本当に事故だったのかも分かりませんがね。」

「分からないことだらけですね....あとこれも疑問だったのですが。」

「何だ?」

先ほど考えていたことを口にしてみる。

「賊は何故あの日私たちが街に出ると知っていたのでしょう?」

「それは俺も考えていた。あまり考えたくないがあり得るのは.....」

「邸内に内通者がいる、ですかね。」

「それしか考えられん。となると厄介だ。商人を呼ぶにしても直前まで知られるわけにはいかない。」

「そうですね。レオ様とクシェル様....コンペル様は大丈夫でしょうか。」

「コンペルではないと信じたいところだ。」

「私にも来られる日の朝伝えてくだされば構いません。話しているところを聞かれる可能性もあります。」

「そうしよう。悪いな、慌てさせるが。」

「仕方ありません。エティが苦労するかもしれませんが。」

「そこは諦めてもらうか。」

揺られる馬車は、重い沈黙に包まれた。

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