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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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つまらぬ世界、広がる毒

つまらぬ世界、広がる毒

主役である娘が入場し、当主が祝辞を述べた後、軽食を伴う社交タイムが始まった。

レオが娘に挨拶しているのが見える。

動揺しなかったと言えば嘘になる。だがあの日決めた。レオの結婚相手が決まれば去ると。

決めたら楽になった。痛みはある。だが先の分からない幸せより、痛みの方が慣れている。

今、レオといることを選べた。愛されることを知った。もう、それでいい。

会場の視線には、少なからず驚いた。まさか侍女如きにあそこまで反応するなんて、貴族社会は余程噂話に飢えているらしい。

壁際に立ち、参加者を観察していく。

娘の結婚相手の品定めをする母親。声をかけられることを心待ちにし、互いのドレスを褒めながらその格を見極めている少女。青年たちはそれを見ながら誰が1番美しいかを考えている。

つまらない世界だ――――

自分もこの中にいたかもしれない。そう考えると変な感じになる。

感傷に浸っている場合ではない。中毒症状を持つ者を探すこと。それが今日の仕事だ。

パーティーが始まってすぐ、端にいる男の目の焦点があっていないことには気づいていた。今も微かにグラスを持つ手が震えている。

1人目。

今回の厄介なところはおそらく1人や2人ではないところだ。歓談中のご婦人たち。一見和やかなようだが1人よく喋るご婦人がいるようだ。高揚したように話し続ける彼女は元からそのような性格なのか。

しきりに喉の渇きを気にして唇を舐めている青年、

先ほどから何も食べ物に手をつけず、音や光を気にしている少女。

これは思ったよりも。

(多いな....)

レオがこちらを向いた。合図をし、グラスを変えるついでにメモを渡す。

他にいないか。目を凝らしてよく見てみる。

数人、断定は出来ないが怪しいものもいた。恐らく中期、末期の症状のものはこの場には現れていまい。欠席者のリストも合わせて調べるべきだろう。

しかし今回の麻薬の件、全てが違和感だ。一体どこから始まっているのか。

仮に賊の件から始まっていたとしたら目的はただの麻薬ではない。賊の集め方はあまりにも杜撰だった。セラが書状を届けていなければもう少し膨れ上がってはいたかもしれないが、国家転覆とまではいかなかっただろう。

出た商家に大して、正体不明の貴族――――

賊の件も、麻薬をレオに渡そうとしたやり方も、どれも成功率が低く、最適なやり方とは思えない。これら全ては目眩しで目的はもっと別のところにある可能性もある。

そういえばあの頃レオは媚薬でも狙われていた。あれも絡んでいるのだろうか。

レオを狙っているようで、殺すことは望んでいない。そこは間違いないように思う。もし敵の望みにレオが絡んでいるのなら確かにセラが邪魔でレオを生かすことも納得がいく。

コアルシオンとカルディアで起きている開戦の噂。もしそれが目的だとすれば……

レオを操ればレオを推す貴族も必然とついてくる。媚薬、麻薬、セラとレオを陥れる可能性のあるもの全てを試していたとしたら辻褄は合う。

「壁に咲く美しいお嬢さん。難しい顔をして。折角の美しい華が台無しだ。」

レオと同じ歳くらいだろうか。軽薄を絵に描いたような男だが目には強い意志が宿っている。

セラは何も言わずただ一礼した。こんな場所で話せば礼を欠くことぐらい分かっていように。

「流石に仕込まれてるか。どうだい?ダンス一曲ぐらいなら主も許してくれるんじゃないかな?」

「私は侍女です。壁にいることが仕事でございます。」

「ふむ....おや、傷があるじゃないか。主に大事にしてもらえてないのかな?美しい顔に似合わない。」

「よく回る口だな、グラント。」

人を殺せそうな声で現れたのはレオだった。

一瞬にして凍りついた場は助かったはずなのに余計まずくなった気がする。

「これはこれは。王弟殿下の侍女でしたか。」

「知っていただろう。戯言はやめろ。」

「そんな恐ろしい顔をすれば本気だと勘違いされてしまいますよ?」

「噂話しか生きがいのないお前らだ。好きにするといい。」

「殿下」

「ああ、そうだな。言い過ぎた。俺は出る。行くぞ。」

 

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