策謀の宴、偽りの侍女
策謀の宴、偽りの侍女
「...その格好を見るのは久しぶりだな。」
「まだ2週間ほどしか経っていませんよ。」
「それもそうだな。随分前のように感じる。」
「確かに。時間とは不思議なものですね。早くなったり、遅くなったりする。」
「勝手なものだな。太陽が沈んでくれなきゃ俺たちは馬鹿みたいに永遠に動き続けているのかもしれん。」
「夕焼けの色を見るのは大事かもしれませんね。」
いつかの皮肉だろうか。出会ってまだ5ヶ月と少ししか経っていない。なのにセラの存在はレオの人生を変え、今まで出会った誰よりも大きなものになっていた。
「今日パーティーを主催しているサントラ家だがな。俺がメーアベルクの離宮を気に入っていると言ったのは覚えているか?」
「はい。海がお好きなのですよね。」
「ああ。以前からここにはよく来ていてな。その度に狩や食事の誘いを受けている。兄王にもよく仕えてくれる貴族だ。で、今回はその娘の17の誕生日パーティーなわけだが...」
なんとなく言いにくい。それを察したセラがなんてことないように続ける。
「結婚相手を探していると?」
「...まあ、そういうわけだ。」
「それであればレオ様は真っ先に候補に上がるのでは?」
あまりにも自然。何の躊躇いも、戸惑いもなく口にするセラは逆に違和感があった。普通恋人にこんな話が来ていたら動揺したっていいはずなのに。
「...向こうはそう思っても俺にはそんなつもりはないから勘違いするなよ。」
「分かっています。」
「...それならいいんだが。もし中毒症状が出ていそうなものを見つけたらメモで知らせろ。」
「承知しました。」
侍女の口調に戻っているが、今はその方がいいだろう。下手に直前まで恋人でいれば、ボロが出てしまう。
「麻薬の件ですが、こちらに来てから進展はあるのですか?」
「ああ。書かれてあった密輸ルートを調査したところあるギルドが引っかかった。だがそのギルド、どうにも怪しい。コアルシオンのギルドだが登録されている商人の中にカルディアの商人が混じっている可能性がある。」
「今日、中毒症状のある者がそのギルドの商人を呼んでいれば当たりでしょうね。」
「到着しました。」
外にはサントラ家の者たちがレオを出迎えるために立ち並んでいる。王族を出迎えるためとは言え昔からこれがレオは好きではない。
「殿下、本日はよくぞいらして下さいました。」
「招待に感謝する。だが堅苦しいのはよせ。俺が堅苦しいのが苦手なのは、貴殿なら知っているだろう。後で娘君には挨拶をさせてもらう。」
「そうでしたな。娘も喜びます。ご案内させてください。」
「ああ。」
香水と酒の匂いが入り混じった会場は、既に招待客で溢れていた。レオが入った瞬間、視線の全てが向けられる。
「王弟殿下も呼ばれていたのか。しかし後ろの女は?」
「あれがただの侍女か?」
「けれど王弟殿下には楽師が...」
セラの容姿は、否が応でも目立つ。
連れて来ればこうなることぐらい分かっていた。分かっていても、不愉快だ。
「殿下、お顔を保って下さい。余計怪しまれます。」
隣からクシェルの祈りのような声が聞こえてくる。
「分かっている。」
目的を違えてはいけない。広がり続ける麻薬は、いい加減どうにかせねばならないのだから。
侍女やってたのついこの間なんですが、なんだか遠い昔のことのような気がします。




