醜い私、溢れる心
醜い私、溢れる心
朝、起きて無性にハープが弾きたくなった。
1人で部屋に響くハープの音は、いつも寂しくて苦手だった。だが今日はその寂しさを感じなかった。
昨晩、触れられた唇がまだ熱い気がする。
下へ降りて行く手に進んで欲しいと思ったこと。
けれどレオはセラの身体の傷を美しいとは思わないかもしれない。そう思うと、とても先へ進みたいとは言えなかった。
それに――――
レオは自分の何を好きになったのだろう。ハープの音?それともセラが王族に対して淡々としているのが珍しいから?
セラは元々淡々となんてしていない。生き延びるために身につけたもので、本来は感情がすぐに出てしまう方な自覚はあった。だから人一倍気をつけて生きているのだ。
(もし、私が素直になればレオ様は嫌になるかしら...)
弟も見つかっていない。なのに自分はこんな幸せを手にしてしまった。昨晩の後悔が突然押し寄せたようで、弾いて温かくなった気持ちは一瞬にして影を落とした。
ライのことも、傷だらけの身体のことも、全部忘れてあの幸福に浸った自分が急に恥ずかしくなる。
でも、レオに知られたくない。折角あんなに嬉しそうな顔をしてくれていた。裏切るような顔はしたくない。
「セラ、こっち。」
あの日からレオは甘い。見つめる目も、かける声も、触れる仕草も。
愛されている。愛されることがあまり分からないセラですら目に見えるくらいだ。
ある日、いつものようにキスを落としてレオが言った。
「3日後にな、サントラ家という家が主催するパーティーがある。お前にも侍女としてついて来てもらいたい。流石にあれ程人目の多いところで暗殺はされないだろうし、置いておくのも不安だからな。ついでに壁際から見て麻薬依存の兆候があるものを見つけてもらえたら助かるんだが。」
「分かりました。ですが狙われるのが私だけとは限りません。レオ様も気をつけてくださいね。」
「ああ。あの時のような失態は犯さん。お前にも迷惑をかけたくないしな。」
別に今なら、迷惑をかけたっていいのではないか。
(何故――――)
そう聞きかけて、やめた。
「セラ?」
「あ、いえ。何か情報が得られるといいですね。」
「そうだな。いい加減進展させたいところだ....。
ところで明日商人を呼んである。ちゃんと準備しとけよ。」
「商人?例の麻薬の商人ですか?」
「違う。そのためにドレスを用意すると言っただろう。言質は取ったの、覚えてるな?」
そうだった。羞恥心に負けて好きにしていいなどと言ってしまったのだった。あの時の自分を呪ってももう遅い。
「なかったことには、出来ませんかね?」
「何を言ってるんだ。俺の楽しみを奪うつもりか?」
「いえ....」
「エティには伝えておくからな。やっとお前のドレス姿が見れるのか...」
もうやってられない。そう思って胸に顔を埋める。
「セラ」
耳元で名前を呼ぶ声。レオが呼ぶと自分の名前が好きになるようで、くすぐったい気持ちになる。もっと甘えてしまいたい。ただ素直にこの人を求められたら――――
怖い。自分の欲がどんどん深くなっていく。こんなに自分が醜い生き物だったなんて、知らなかった。
「...お前は美しい。お前以上に魅力的な女なんて、いないんだ。」
本当に?私の醜い部分を知っても、貴方はそう思ってくれるの?
心で思う声は、声にならずに消える。
「.....」
「少しずつでいい。俺の言う意味が分からなくたっていい。愛して、愛されることを覚えてくれればいいんだ。」
確かによく分からなかった。何が愛なのかは分からなくても、レオを愛してると思う気持ちは嘘じゃないのだ。
触れたい――――
そっと顔を近づけて唇に触れた。




