傷は浅く、恋は深く
傷は浅く、恋は深く
傷口に触れるワインがしみる。
だがそれよりも痛むのは胸の奥だった。
「傷は残るかしら?」
そう聞いたのはグレータだった。
「恐らく少しは残るかと。傷そのものは浅いので日が経てば光に当てた時に見えるくらいだとは思いますが。」
「そう.....」
いつも威厳のあるグレータの力ない声を不思議に思った。
(何故グレータ様が私の傷を気になさるのだろう...)
医務室を出、向けられた目にグレータがレオの乳母であったことを思い出した。
「貴女も無茶をしてはいけませんよ。女が傷つくと、男は悲しむものだから。」
「.....レオ様は、怒っておられるようでした。」
「坊ちゃんはね、普段はあまり怒らないけれど大事な物や人を傷つけられると驚くほど冷徹になるわ。」
坊ちゃん。グレータがそう呼ぶのは初めて聞いた。
「それは....分からなくはありませんが。」
「貴方たちは少し似ているわ。話さないと分からないこともあるものよ。逃げずに話しなさい。殿下は怒りに身を任せるほど愚かではないわ。」
「.....何故気にかけてくださるのですか?」
「老婆心よ。それ以上のものではないわ。」
「......ありがとうございます。」
「部屋に戻って、その血まみれの服を何とかしなさい。エティが騒ぐわね。」
確かに。卒倒してしまわないだろうか。
「はい。失礼します。」
グレータの意図が分からなかった。仮にレオの想いを汲んだとしても、平民の女との恋路を助けるのは彼女にとってあり得ないはずだ。
(やっぱり、気づいてるのか.....?)
気づかれていたとして、自然に考えれば連れ戻されているはずだ。
気づかれて、最終的に裁かれるのだとしても。
(まだ、側にいたい。)
そう思う気持ちの許しは、誰に求めればいいのか分からなかった。
グレータさんは実はお節介焼きな気のいいおばちゃんなんです。




