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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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村に還り、過去と向き合う日

村に還り、過去と向き合う日

「そういえばセラ」

「はい。」

「離宮へ行く前に一度村に戻るか?」

「よいのですか?」

「ああ。離宮へ行けば何が起きるか分からん。そう不穏なことはないとは思いたいが、今のうちに行っておくのがいいだろう。」

「ありがとうございます。」

「ただし1日しかやれない。構わないか?」

「十分です。難しいと思っていたので。」

「お前の望みは出来るだけ叶えてやりたい。薬師は無理だったがこれくらいはな。あの弟子....ルディだったか?寂しがっているだろう。」

「ルディは....どうでしょう。案外上手くやっているかもしれません。」

強がるルディの目を思い出した。エレンの方が意外と苦労しているかもしれない。 

「まあそれならそれで会えば安心出来るだろう。クシェルを付けてやるから明後日にでも行って来い。」

「1人でよいのですが。」

「それはダメだ。クシェルが同行出来ないなら村への帰省は許さない。」

中々頑固な人だ。どうせ反抗したところで無駄なことくらいは学んだ。

「....分かりました。ありがとうございます。」

「楽しんで来い。」

その笑顔でどうでもよくなるのもまた憎らしい。


「セラ様、支度はできましたか?」

「はい。」

「では参りましょうか。」

久しぶりの馬に跨ると広がる視界。

10ヶ月間いた村に戻るだけ。それだけのことが何で緊張するんだろう。

打ち付けるように吹き付ける風に頬が冷やりとする。

「またクシェル様のお時間を取ってしまい申し訳ありません。」

「セラ様が謝られることではありません。どうせまた殿下の我儘でしょう。」

「クシェル様はいつからレオ様に仕えておられるのですか?」

「我が家は代々王家に仕える家系です。兄は現王に、私は殿下にお仕えすることが幼少の時より決まっていました。正式に仕え始めたのは15の時でしょうか。」

「嫌だとは思わなかったのですか?初めから決まっていることに。」

「そうですね、幼少時あちこちに逃げ回り、人を揶揄い回る主に自分の未来を憂いたことがないと言えば嘘にはなりますね。」

「ああ....目に浮かぶような...」

「ですが....」

クシェルはそう言うと目を閉じた。

『クシェル。今日からお前は俺に仕える。裏切ることも、楯突くことも許さない。だが。

俺が愚かに身を滅ぼし兄王に剣を向けるようなことがあればーーーー

その時はお前が俺を切れ。それをお前には許す。』

「あの目を見た時、私は殿下にこの身を捧げることを決意しました。それ以来、散々振り回されてはいますがその実現王のために身を尽くしていらっしゃいます。」

クシェルの言うことは分かる気がした。彼に振り回され、ペースを乱されているのにあの目を見ると許してしまう。だからあれだけ自由に動いているのに民衆人気は高く、王や臣下からも信頼されているのだろう。

「セラ様こそ、不満に思うことはないのですか?人生上手くいかないことも多いでしょう。」

「どうでしょう。生きているだけでも不相応に思うぐらいです。死ぬ術を知る前に生きる術を身につけてしまった。ある意味それが不満でしょうか。」

「殿下が聞いたら必死になって説教始めそうですね。」

「意外と説教臭いですよね。教師なんか向いてるのかも。」

「自分が授業を放り出していそうですけどね。」

そんな話をしていると村が見えてきた。

「セラだ!」

「セラが帰って来た!エレンを呼べ!」

馬二頭では騒々しかっただろうか。村人たちがセラの姿を見るや否や叫ぶ。

「自分で行くからいいよ。ありがとう。」

「セラ様、私は表で待っていますので。」

「はい、ありがとうございます。」

たった数ヶ月ぶりの戸を叩くと懐かしい顔が出て来た。

「セラ姉!外が騒がしいと思ったら....いつ帰って来たの?」

「今よ。急に驚かせてごめんね。」

「セラ姉ならいつでも大歓迎だよ。どうしてるかなって思ってた。」

中に入るといつも通りの薬草の匂いが部屋に溢れている。

「私もだよ。どう?何とかやれてる?」

「やっぱりセラ姉のようにはいかないかなあ。同じ頭痛でもこんなに違うなんて思わなかった。」

「見分けるの難しいよねえ。痛んでる部位、期間、きっかけをしっかり対話して聞くんだよ。少しずつ分かるようになるから。」

「うん。いつ帰るの?」

「今日の夕方には出るよ。無理聞いてもらってるから。」

「ルディには?」

「後で会うかな。まだ仕事してるでしょ。」

「おお、セラじゃないか。お前がいないと薬の効きが悪いぞ。」

後ろから薬をもらいに来ていたであろうターリン爺さんが顔を出した。

「ちょっと!ターリン爺さん酷い!」

「ほっほっエレンも悪くないぞ。セラの腕が良かっただけじゃ。」

「爺さん、お腹の調子はどう?」

「一時治まっとったんじゃが、最近またシクシクするでのう。」

「冷えて来てるからね。ただ爺さんの場合は体質的に熱がこもるからペパーミントを増やして、温めるジンジャーの割合をほんの少しだけ上げよう。」

「ペパーミント増やしていいの?冷やすのに」

「熱が籠る体質の場合のみだよ。消化を促進させるのにいいからね。代わりにジンジャーを少量増やしてあげる。バランスが大事だよ。」

「そっか.....」

「汗のかき方や体温、皮膚の状態などから体質を見るんだよ。ハーブの使い方は一つじゃないからね。」

「分かった。」

「大丈夫、薬の調合自体は間違ってないよ。本も持って来たからまた読んでおいて。」

「うん、ありがとう。」

「セラは村には戻らんのか?」

「今のところ戻る予定はないかなあ。また様子は見に来るよ。」

「そうか。残念じゃのう。まあゆっくりしていけ。またな。」

「またね。」

ほっと一息吐くとエレンが珍しく弱った顔をしている。

「エレン、大丈夫?」

「うん....やっぱり難しくて。」

村の病人をいきなり一手に引き受けたのだ。無理もない。

「ごめんね。急に大変でしょう。エレンが出来ることだけ、やればいいのよ。あとはいなくなった私のせいにしていいからね。」

「セラ姉が来る前は皆自分で何とかしてたんだけど...セラ姉が来て味をしめちゃったみたい。」

セラを村に引き入れたのはエレンだ。責任感の強い彼女は自分の腕を責めているのだろう。

「エレン、貴女が私を村に入れたことも、私が村を去ったことも誰も責められることではないわ。エレンはこの短期間で信じられないほど良い腕になってる。それは私が保証する。1人で放り出されて、不安な中これだけやってるエレンは立派よ。」

「ありがとう....セラ姉....」

まだ15歳。不安な中1人で頑張って来たエレンの目から涙が溢れる。

もしメアがエレンのようだったら世界は違っただろうか。

『何で火くらい起こせないの!....あっ....ごめんね、メア。』

『セラ姉様は厳し過ぎます....』

一度だけ。一度だけだった。メアに声を荒げたのは。市で稼ぎ、食料の調達に夜の警戒とライの看病。毎日ほぼ徹夜でふらふらだった。少しだけ休みたかった。何回教えても火すら起こせずセラを起こしに来たメアに、思わず声を荒げてしまった。

ただ泣くメアを必死に慰めた。一度の過ちはメアを怯えさせてしまったらしい。メアはセラのことを怖い姉と言うようになった。

私が、間違ったんだろうか。

目の前で泣くエレンは必死に自分の足で立とうと努力している。

ならメアは? 

もう死んでしまった妹。最後まで、心が通うことはなかった。

「エレン、よく頑張ったね。」

抱きしめたエレンとは、繋がった気がするのに。

「....ルディのところに行ってあげて。セラ姉が帰って来てたのに会えなかったなんて知ったら荒れちゃう。」

「....うん。エレン、無理はしたらダメだよ。」

「大丈夫。私、頑張るよ。」

ルディはセラを見ると亡霊でも見たかのような顔になった。

「え、セラ姉....?」

「ちゃんと鍛錬してる?」

「何でいるの....」

「帰れるようにお願いするって言ってたでしょ。1日だけ許可を頂いたのよ。もうすぐ出なきゃいけないから慌てて会いに来たの。どうしてる?」

「本当に許可貰えたのか....。俺、頑張ってるよ。ちゃんと言われた通り鍛錬してる。」

「ちょっと見せて。」

「う、うん。」

可愛いルディ。弟子を取ったことを後悔してしまうほど、愛着が沸いてしまったこの子の嬉しそうな顔は村を出るのを躊躇わせる。

「どう?」

「いい感じ。ちゃんと言ったこと守ってるのね。目線だけしっかり上げて。でも後ろの警戒は怠ってはダメよ。」

「セラ姉、たまには褒めるだけでもいいんだぜ?」

「愛の鞭よ。強くなって欲しいと思ってるだけ。本音を言えば手放しで褒めてあげたいわ。」

「ちぇっそう言うのはずるいや....セラ姉、すぐ出ちゃうの?」

「もうそろそろ出なきゃいけないのよ。夜は馬を飛ばせないから。」

「また来れる?」

「そうねえ。数ヶ月は空いちゃうかもしれないけど、来れるはずよ。」

「なら俺、もっと強くなって待ってるからな。」

「期待してるわ。」

「セラ様、そろそろ...」

申し訳なさそうなクシェルが呼びに来た。寂しそうなルディの頭を撫でてやる。

「そんな顔しないの。妹とお母さんを守るんでしょ。」

「分かってるよ。」

「じゃあ、またね。」

「うん。」

村に、別れを告げた。その時はまた来れる。そう思っていた。

 

執筆の方完結までいったので1日3話更新に変えようと思います!

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