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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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ライの想い

ライの想い

王弟殿下が自分を呼んでいると聞いた時、終わりだと思った。浅ましくも生き残ってしまった自分への罰が降る時が来たのだと。

だが待っていたのは予期せぬ姉の報せと所在だった。それに王弟殿下は本気で姉に惚れていると言う。

(セラ姉様.....)

ライにとって、セラは全てと言っても過言ではなかった。幼い時から自分を守り、育て、教えてくれた。だから納得がいかなかった。優しい姉がいつも損することを。

『何故セラ姉様は人に優しくするのですか?誰も返してくれやしないではないですか。』

『そうかもしれないわね。でも後悔するのは自分なのよ。私は、生まれたことを恥じないように生きたい。』

その言葉通り、姉は人を守り、医療で、音で人を癒やし続けた。代わりに銭をもらい、崇める人はいても姉を守ってくれる人はいなかった。

だから、耐えられなかった。姉の身体までが汚い男に汚されることを。気づいた時には矢を射ていた。後悔はない。

(もし、本当に王弟殿下と結ばれてくれるなら....)

『セラ姉様は、泣かないのですね。』

『人前で泣くのはどうも難しいわね。』

『あの人の前でも?』

『そりゃあ.....別にあの人とそんな関係があるわけじゃないわ。』

ライの知っている限り、姉が人前で泣いたことはない。そんな姉が、王弟殿下の前で泣いたと言う。

王弟殿下は自信を失くされていたようだったが姉は恋愛ごとは縁のないものと決めつけてきた人なだけに疎いだけだ。

実際村では愛嬌のあるメアベル姉様とは違い孤独な雰囲気を纏う姉に焦がれる者も多かった。全てライが排除していただけで。

薬草を干しながらそんなことを考えていた。

また来ると言った王弟殿下は本当にやってきた。余程姉に振り回されているようで王族として威厳を纏ってやって来る彼は時に冷静、時に気の弱い男だった。

「ベルシュタイン辺境伯は何故お前たちを迎え入れたんだ?」

「それは....」

あの時の緊張が蘇る。

『今更戻ってきて、何の真似だ?』

血筋としては伯父に当たる当主の声は、絶対零度の冷たさを誇っていた。駆け落ちした妹が、子供を連れて来たのだから当然かもしれないけれど。

『そ、それは....』

しどろもどろになっている母を見ていられなかったセラが前に出た。

『私が、家を出るよう母に言ったのです。』

『お前が?何故?』

『父は母と弟に手を挙げ続けていました。身体の弱い弟はこのまま冬を越すことは難しい。そう判断したためです。』

『ここに来れば私が慈悲をかけるとでも思ったか?』

『いえ。駆け落ちした娘を迎え入れるなどあり得ぬことです。ですが、辺境伯に娘はおられぬと聞きました。』

『....確かにいないな。それがどうした?』

『私を、お使いください。政略結婚の駒にでもすれば多少お役には立ちましょう。』

ライは怖くて何も言えなかった。11歳にして、恐ろしい辺境伯を相手に真っ直ぐ目を見て交渉するセラを、辺境伯は気に入ったようだった。

『......ほう。悪くない。ヴィクトリア、この娘を16歳になった時養子として差し出すなら置いてやらんこともないぞ。』

『わ、私たちはどうなるのですか?』

『使えぬ駒はいらん。離れに住まわせてやるだけ有り難く思え。』

『そんな....』

言い募ろうとする母を、セラが遮った。

『十分です。勿体なき慈悲、感謝いたします。』

『娘の方が余程弁えているな。聡明な娘に感謝することだ。』

人生の中でもあれ程緊張に満ちた空間もそうなかっただろう。レオに呼ばれた時は一瞬似たものを感じたが。

「なるほどな....使えるものは使う。ベルシュタイン辺境伯らしい。」

「母はその待遇に耐えられず始終文句と嫉妬を姉に向けていました。命が助かっただけありがたかったのに。」

「よくそんな親からセラやお前が産まれたな。何かの間違いじゃないのか?」

「それが事実なので仕方ありません。反面教師というものでしょうか。」

「不思議なもんだな。助かった。今日は帰る。」

想像していたよりも気さくで、セラへの強い感情を持つ者同士、王弟という立場のレオにライは不思議な繋がりすら感じ始めていた。

ある時レオは酷く弱った様子でやって来た。

「お前の姉が優しいのは知っている。だが薬で苦しむ男に身体を差し出そうとするのはどうなんだ.....?」

流石にこれには驚いた。王弟殿下の前での姉は、ライの知る姉ではないようだった。

「愛してると言ったのにまるで変わらない。確かに今まで通りでいいとは言ったが.....」

「言ったのですか?」

「......あのままだったら勢いで抱くところだった。仕方なかったんだ。」

「姉は感情を隠すプロです。殿下の前ではよく出ている方だと思います。」

「ただ無表情なんじゃなくて一見普通に見えるから余計タチが悪い。」

ぶつぶつと文句を言って去っていく王弟殿下は普通の一人の男に見えた。

姉に幸せになって欲しい―――――

ただ、願うのはそれだけだった。


 

シスコン気味なライくんです。

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