応えられない想い、痛む心
その日から呼ばれた部屋に行くとレオは驚くほどいつも通りだった。いや、違うかもしれない。以前のように髪に触れるようになり、好意を隠さなくなった。応えられないセラは苦しくなるばかりだ。でも悟られたくなかった。レオにも、誰にも。だからいつも通り仕事をし、話し、笑った。誰もセラの変化に気づいていないはずだった。グレータとレオだけは気づいているかもしれないけれど。
ある日、昼間仕事をしていると呼ばれた。向かった部屋ではレオが商人と絵を挟んで対峙していた。何かを企んだ顔。セラに目配せした後瞬時に甘い顔に変わる。
「ああ、セラ。こっちに来てくれ。この絵、どう思う?丁度奥の賢者の間にいい絵がないかと言っていただろう?」
なんともわざとらしい。これで商人は気づかないのか。
「確かに良いですね。心が落ち着くような絵です。」
「あとこっちの絵はどうだ?俺の部屋が少し物寂しいと思ったんだが....」
「それならばこちらの絵はいかがでしょう?殿下は海がお好きでしょう?」
「ああ、そうだな。お前に聞いて正解だ。この二つにする。」
「はい、ありがとうございます。」
商談が成立してにこやかな商人が去ると、レオは一気に冷めた顔に戻った。
「で、この絵に何かあるのですか?」
「ああ。あるはずだ。」
そう言いながら一つ目の絵の額を外していく。中から出てきたのは一枚の紙だった。
その紙を険しい顔で眺めている。
「クシェル、メーアベルクの離宮に向かう。しばらく滞在するから準備しろ。」
「承知しました。」
「さて、この紙が何か分かるか?」
紙を覗き込むと書かれていたのは暗号のようだ。
「暗号....ですね。」
「そうだ。内容は麻薬の密輸経路に関するもの。コアルシオン国の王子からだ。」
「コアルシオン国?敵対は表向きですか。」
「ああ。仲良くしているとなればエイマールが黙っていないからな。」
確かエイマールにレオの妹は嫁いだはずだった。コアルシオンとエイマールの関係は良好ではない。小国のエイマールにとって、カルディアとコアルシオン、二つの大国に仲良くされれば黙ってはいられないだろう。
「なるほど。しかし麻薬はコアルシオンにも及んでいるのですか?」
「それが奇妙でな。流行り始めた時期は同時期。しかも持ってきたのはお互いの国だと言い合っている。」
「戦争でも誘っているかのようですね....」
「それを危惧している。今コアルシオンとの戦は避けたい。だが向こうの宰相は開戦派らしくてな。あっちの第二王子とは昔から親交があるんだが、今回戦を避けるために協力している。」
「今戦を始めれば勝っても負けても国への負担は大きい。避けたいところですね。」
「そういうことだ。そこでだ。」
真剣な王弟は一転して軽妙な王弟へと変わる。
「密輸経路となる場所は俺の離宮に近いらしい。お前にも来てもらう。嫌かもしれないが楽師としてな。」
「.....何故ですか。」
「俺が離宮に行く理由が欲しい。静養して音楽に身を休めたいとかなんとかな。あとさっきのように商人を何度か呼ぶことになるかもしれない。俺が入れ込んでる楽師に買い与える名目なら呼びやすいーーー別に嘘でもないしな。」
最後は余計だ。一々思い出させないで欲しい。こちらとら平静を装って生きるのに毎日苦労しているのだ。
「ただの静養でただ贅沢がしたいでも殿下の立場なら十分説得力があると思うのですが。」
「俺は派手に買う方じゃない。急に商人を呼べば怪しまれる。それに楽師なら好きな時に呼べるだろ。」
開き直った。それにあれで派手に買う方じゃないなんて王族とはどんな生活をしてるんだ。
「それに書庫もある。退屈ならいくらでも読んで構わない。狩に出てもいいぞ。薬草採集でも、好きにすればいい。これならどうだ?まだ退屈か?」
「それは......分かりました、お受けします。」
根負けした。




