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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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44/158

願わくば、幸せな結末を。

重い顔をして出てきたセラの顔を見て何があったかを想像するのは容易かった。昨晩、セラがレオを部屋に連れて行くのをグレータは見て見ぬふりをしたのだ。我が子のように思うレオへの、せめてもの情けだった。だが予想に反してセラは夜を明かさず部屋を出てきた。

そして今朝、セラは部屋の前で人目も忘れて盛大なため息をついている。

「何かあったかしら?」

常に周りへの警戒を怠らないセラが心底驚き、慌てていた。執務室の掃除を命じると逃げるように歩き去るセラの背を見ながらグレータは考えていた。

侍女にしておくには勿体無い素養。何でもすぐに飽きてしまうレオがセラに対してだけ見せる執着。レオの前でだけ僅かに緩むセラ。グレータはセラを気に入り始めていた。本来なら王弟を誑かした女だと憎むべきはずなのだが。

(セラに身分さえあれば....)

結ばれることはない。結ばれるということは王族の地位を捨てるということだ。

それだけはして欲しくなかった。そしてセラ自身がそれを望まないであろうことを知っていた。だからこそ彼女を嫌いになれなかった。

「殿下、朝食はどうなさいますか?」

「少し食べる。.....セラは?」

「執務室の整頓をしています。」

「.....なにか、言っていたか?」

「私に言うわけないでしょう。そんなに弱い子じゃありません。」

「そうだな。忘れてくれ。」

「.....私も殿下に幸せになってほしいのですよ。」

レオの見開いた目がこちらを見つめている。その顔は幼い時から変わらなかった。

「お前がそんなことを言うとはな。セラを気に入ってるんだろう?」

「気に入っていますよ。仕事は出来るし理性的です。」

「だが、と言いたけだな。」

「当たり前です。どうひっくり返ってもただの平民が妃にはなり得ません。」

「.....ならセラがただの平民でなかったとしたら?」

「何をおっしゃるのです?」

「お前もおかしいと思っているだろう?俺だって考えなしに村娘を口説くような真似はしないさ。」

「ただの村娘ではないと?」

「....血筋はな。上手くやれば妃にだってなれる。」

「セラは分かっているのですか?」

「分かっている。妃になるなどとは思ってないだろうが。」

「....あの子が望まなければどうするのです」

「俺を望めば必然的に妃になる。....今はまだ苦しめるばかりだがな。」

「珍しく弱気ですこと。」

「あんな顔をさせたんだ。弱気にもなる。」

「何も思っていない相手にあんな顔しませんよ。」

「なんだ、励ましてくれるのか?」

「老婆心です。弱ってらっしゃるようなので。」

「...ありがとう、グレータ。」

普段からこれぐらい可愛げがあればいいのだが。まあそこが彼の魅力なのだけれど。

「礼を言われるようなことはしていませんよ。さあ、朝食にお向かい下さいませ。」

「ああ、そうする。」

グレータはもう一度考えた。仮にレオの言う通りだとしたら――――

もう少しだけ見守ろう。願わくば幸せな結末を。

そう思いながら乱れたシーツに手を伸ばした。


 

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