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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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明かされる理由、幸せな願い

連れられてきた少年は明らかに不安を感じていた。特異な素性を持ち、王族に呼ばれたとなれば当然のことだろう。

「私をお呼びと聞きましたが.....」

「ああ。名前はライ。ライナーで間違いないな?」

「ライと皆呼びます。」

こうして見るとよく似ていた。表情も、真実と嘘を混ぜる癖も。

「姉がいるな?」

「......答えなければなりませんか?」

「俺は君の敵じゃない。君のことも、姉のことも傷つける気は一切ない。」

「何故.....」

「答えるのは君の後だ。姉はセラフィーナ。セラで合ってるな?」

レオが全てを知っていることを悟ったライは大人しく頷いた。

「.....はい。」

「姉が君を探していることは?」

「知りません。姉は私を死んだと思っていると思います。」

「残念ながらそうじゃない。セラは敗戦の報を聞いてからずっと君を探し続けている。」

「何故そう思うのですか?」

冷静だ。セラの名を口にする度目は揺れても表情には出さない。

「セラを知っているからだ.....と言えば君は信じるか?」

「....信じるに足る証拠がありません。」

「....ふっ。確かに姉に似て冷静だな。その顔もそっくりだ。」

「本当にご存じなのですか?」

「物質証拠はあまりないがセラのことならそれなりによく知ってるつもりだ。琴の名手で聡明。医療の知識を持っていて食べ物には無頓着なのに菓子には妙に弱い。剣の腕も良いが根が優しく人を切るのは苦手だ。冷静な顔をしてその実感情豐かで繊細な女の子。どうだ?間違ってるか?」

「.....いいえ、合ってます。菓子に弱いかは分かりませんが.....」

「中々面白いぞ。菓子を食べさせたら一瞬素直になる。」

「それは....知りませんでした。何故王弟殿下が姉をそれほどご存知なのですか?」

「市でたまたまハープの音を聴いてな。音に惚れて楽師にしようとしたら断られた。顔が見たいと思って顔を見たらその顔にも惚れた。話せば更に惚れた。これ以上の理由がいるか?」

「いえ......本当に、殿下が姉を....?」

「全く悪い女だ。俺をこんなに惚れさせておいて逃げてばかりいる。今も屋敷にいるが君を見つけたら出て行くつもりだ。」

「屋敷にいるのですか?」

初めてライの目に生気が戻った。

「会いたいか?」

「それは....分かりません。姉にとったら、俺は死んでいる方がいいのかもしれません。」

「セラも似たようなことを言っていたな。弟は私に会いたいとすら思っていないかもしれないと。」

「そんなわけっ.....」

「会いたいなら素直に言えばいい。お前たちは2人とも不器用だ。」

「.......姉はずっと俺を守ってきました。俺がいては姉は幸せになれない。」

「なら今を見せてやれ。ちゃんとここで働いてるんだろう。1人で生きていけると、証明してやれ。」

「........確かに、仰る通りです。」

ライは項垂れた。この姉弟には逃げ癖があるようだ。

「でだ。さっき幸せになれないと言ったな?」

「はい。」

「俺はお前たちの出自も知っている。」

「それは....姉を......」

「そうだな。結婚したいと思ったから調べた。どう見ても普通の村娘じゃないしな。」

「結婚.......本気ですか?」

「大真面目だ。お前にも協力して欲しい。セラの幸せのために。」

「姉は.....その、殿下を慕っているのでしょうか?」

「それは.....微妙なところだな。嫌われてはないが。」

「何故そう思われるのです?」

顔が険しい。大事な姉が嫌いな人間の元に嫁ぐのは死んでも耐えられないといった顔だ。 

「嫌いな奴に髪は触らせんだろう?」

「.....殿下は、もし姉に身分がなければどうされるおつもりだったのですか。」

「最初から何かあるとは思っていたが、なければ王族はやめなきゃならないと思っていた。誰にも言うなよ。」

誰にも言ったことはなかった。言えばセラを皆恨むだろうしセラ自身もそう望まないことは知っている。それでもそのつもりだった。

「そこまで....」

「セラが嫌がるだろうからセラにも内緒だぞ。

セラが俺といる時を見たいならここに連れて来るから隣から覗くか?」

「いえ。俺は貴方に賭けます。姉を、これ程想ってくださる方は今までいませんでした。」

「......今まで色恋沙汰はあったような言い方だな。」

「色恋と言って言いほどかは分かりませんが、姉はモテます。本人は気づいていませんが。密かに想い合っていた相手も一時いました。出自のこともあって姉は結ばれる気はなかったようですが。その相手も俺が軍へ入り、姉が村を去ることになった時、助けてはくれませんでした。貴方はもし王族でなかったとしても姉を見捨てはしないでしょう。」

「あんまり聞くと殺したくなるからそれくらいでやめておこう。」

「心配さらずとももう死んでると思いますよ。あの敗戦時、周辺の村は全て焼けました。」

言い方に一種の狂気を感じる。もしやこの弟はかなりの曲者かもしれない。

「なら、妹もか?」

「メアベル姉様ですか?恐らくは。母も同じだと思います。」

セラの時あれ程動揺していたのに淡々としている。セラと違ってあえてそうしているわけでもなさそうだ。

「セラとは随分関係が違うようだな。」

「当たり前です。俺が父に打たれ、身体を壊した時守ってくれたのはセラ姉様です。旅の間も殆どのことを1人でこなしていました。メアベル姉様は何もしない、母は文句をいうばかりでセラ姉様の負担は想像を絶するものだったと思います。」

予想はしていたがセラの過去は思っていた以上に過酷のようだ。今あの精神性を保っていること自体が奇跡と言っていいかもしれない。

「何故ベルシュタイン家から出た?セラが養子になればお前たちの身の安全も保障されたはずだ....何があった?」

「........母が、イザーク様を暗殺しようとしました。」

「.....何だと?」

「衛兵の1人を誑かし、商家と密通していました。イザーク様が死ねば、必然的に俺を立てるしかなくなり、そうすれば元の生活に戻れると考えたようです。」

「何と愚かな.....」

「下劣極まりない上、姉の努力を全て無駄にする行為です。イザーク様を兄のように慕っていた姉は母のしたことに気づき、激怒しました。突き出すことも考えたようですが、俺は必ず処罰される。そう考えた姉は苦悩の末、母を脅して屋敷を出ることを決意したのです。」

「なるほど、それで謎が解けた。......しかしその母親、憎みたくとももう死んでるのか....」

「ですので村が焼けたと聞いた時も天罰だと思いました。メアベル姉様は気の毒でしたが俺は姉ほど優しくありません。」

「はぁ......何を言っても過去は変えられん。とにかく今の話だ。すぐにセラに会わせてやりたいが、そうするとセラは去ってしまう。会うのは先になるが、構わないか?」

「どうせもう会えぬと思っていました。姉が幸せになれるなら俺は命でも喜んで差し出します。」

「いい覚悟だ。だがまずはセラに俺を望んでもらわなきゃならない.....。なあ、セラはどんな男が好みなんだ?」

王弟としてこんなことを聞くのは情けないと重々理解している。だが甘い言葉を囁いても返ってくる冷たい反応に焦りがないと言ったら嘘になる。この間の件も、香りに当てられただけとも言い切れない。

「そうですね.....あまりそのような話はしませんでしたが寡黙で職人気質の男性に惹かれる傾向があったように思います。」

「俺と真逆だな.....」

「ですが姉が逆えない相手とは言え大人しく髪を触らせているのは奇跡のようなことです。嫌そうでもないのでしょう?」

「俺が余程盲目でない限り至極気持ちよさそうに見える。この間は寝てしまった。」

「寝たのですか?姉が?」

「ああ。落ち込んでいたからな。慰めようと思って横にならせて撫でてやったらいつの間にかな。男として見られてるのか不安になる。」

「姉が人前で寝るなどありえません。泣きもしないのです。」

「一度それこそお前のことで泣いていたぞ。賊にお前が殴られたと聞いた時我を失いそうになって酷く落ち込んでいた。」

「それであれば....限りなく心は殿下にあると思ってよいかと。姉が人前で泣いたなど初めて聞きました。」

「お前にそう言われると失われた自信が少し回復するようだ。たまに来ていいか?」

「私でよければいつでも。」

「ベルシュタイン辺境伯のことも聞かなきゃならん。あんまり長くなると怪しまれるから今日はこれで戻れ。」

「はい。微力ですが、姉のためなら協力させていただきます。」

「頼んだぞ。またな。」

「失礼します。」

不思議なものだ。初めて会ったのにそんな気がしない。しかしこんなところにいたとはーーー

灯台下暗しということか。物事とは進む時は進むものだ。

『寡黙な職人気質の男が好みでしょうか。』

こだました声は無視することにした。自分は変えられない。

(好みでない男に惚れるなら俺に惚れたと言うことだ。)

衰退していた自信を取り戻したレオは王族の威厳と共に治療院を後にした。

ライが本格的に登場しました!

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