兄王の勘、弟の恋
「お前の方から来るとは珍しいな。麻薬の件が進んだのか?」
「そちらは依然調査中ですよ。今日来たのは私的な用件です。」
「ほう。頼み事か?」
「5年前、ベルシュタイン家の養子の証書に印を押しませんでしたか?」
「ああ、押したぞ。それがどうかしたのか?」
あっさりと言い放つ兄王。
「押した.....?」
「なんだその間抜け面は。色男も台無しだな。」
「間違い無いのですか?名前は?」
「名前まで覚えてないが、女だったはずだぞ。確か押したその日に火事で死んだのだろう?出来すぎだと思ったがベルシュタイン家は妙に呪われたようなところがあるからな。」
確かにベルシュタイン家といえば現当主の父親は突然死、妻は出産時に死亡、後妻候補は賊に襲われ死亡と呪われていると言われても仕方のないレベルだ。だから火事が目立たなかったのだろう。
「もしその娘が生きていたらどうなるのです?」
「火を放っていたのであればまずいであろう。なんだ、生きているのか?」
「.......王家としてはベルシュタイン家と関係を持つのは悪い話でないと思うのですが、どう思われますか?」
「いつになく下手だな。まあ悪くはない。裏切るような男ではないからな。他の貴族を黙らせる分にも丁度いい......」
兄が顔を覗き込み、ニヤリと笑う。
「お前、娘に惚れたな?」
兄は勘がいい。レオほど頭が回るわけではないが、兄は王として必要な勘と胆力を兼ね備えていた。
「.....兄上には敵いませんね。」
「お前が遂に落ちたか。お前みたいな奴は恋愛結婚ぐらいの方が民衆も貴族も納得する。で、どこにいるんだ?その娘は。」
「私の屋敷で働いています。」
「なんだと?」
「弟と生き別れたようで、探している間屋敷に置いているのです。見つかったら出て行くと言っています。」
「お前が振られそうになっていると?」
「それは言わないでいただけますか.....」
「はっはっ。それはいいな。振られてしまえ。」
「笑えません。」
「どうせお前は上手くやる。その娘を言いくるめられたら手伝ってやらんこともないぞ?」
「言いましたね?」
「ああ。言質を取ってもらって構わんよ。」
「お言葉に甘えます。とりあえずはこの麻薬の件を片付けてからですが....」
「そうしろ。お前の恋が成就するより先に国に傾かれては敵わん。」
「分かっています。」
まさかこんなにあっけなく事が進むとは。セラともこれぐらい気持ちよく進んでくれればいいのに。喜びと恨みを同時に抱えながら王宮を後にした。
兄王アーノルトの登場です。中々肝の据わったお兄ちゃんです。




