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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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交錯する真実

クシェルが重い顔をして執務室に入って来たのは任務を命じてから1ヶ月近く経った時のことだった。

「何か分かったのか。」

「....出ました。当たりです。」

「やはりな。で、どこだったんだ?」

「ベルシュタイン家です。」

「....ベルシュタインか。思ったより名家だな。」

ベルシュタイン辺境伯家。何代にも亘って辺境伯を務め、広大な領地を持つ老舗の貴族だ。現当主であるエルシウスは決して残虐ではないが計算高さと冷徹さ、そしてプライドの高さで知られる人物だった。

「はい。21年ほど前、現ベルシュタイン辺境伯の妹で、社交界の華とまで言われていたヴィクトリアがある商人と駆け落ちしたようです。」

「その割には噂がなかったが?」

「ヴィクトリアには婚約者がいました。辺境伯はすぐさま多額の謝罪金を渡し、妹が病気になったことにしてもらえるよう頼み込んだそうです。」

「あのベルシュタイン辺境伯が頭を下げたか...」

「仕方がなかったのでしょう。相手は大きな商家の妾の子だったのですから。」

「なるほどな。商人でも妾か。」

「はい。冷遇されて育ったようで家族を見返すと娘の教育にも力を入れていました。妻と義母の折り合いが悪く、贅沢暮らしが抜けない妻との関係は結婚後すぐに悪化したようです。」

「その娘が...」

「セラ様....本名をセラフィーネと言うようです。物覚えもよく、聡明な娘に大層期待していたようであらゆる教育を施したのだとか。対して身体の弱かった弟には常に手を挙げ、容姿以外取り柄のなかった妹には目もくれなかったようです。」

「なるほどな。妹とは合わないわけだ。」

「セラ様は弟と母を庇い続けていたそうで、そのことで父親とも上手くいきませんでした。代わりに殴られ続け、遂に11歳の時、父以外の家族と共に屋敷から逃げ出したそうです。」

「追われなかったのか?」

「夜が明ける前に姿を消し、父親が気づき追っ手を出したそうですが、とうとう見つけられずでした。」

「行ったのはベルシュタイン家か?」

「その通りです。経緯は分かりませんが、ベルシュタイン辺境伯はセラ様を使えると判断し、16歳で養子にするとの約束と共に家族を離れに住まわせ、内密に教育を施したそうです。ご子息のイザーク様とは剣技や馬術の稽古を共にされることもあったそうですが、その存在に関しては箝口令が敷かれ、客人に姿を見せることはありませんでした。」

「離れ?」

「はい。そのようです。」

その瞬間、一つの記憶が蘇った。忘れられない記憶の一つであるあの音ーーーー

5年前だ。各地での税差、ブルータル辺境伯の度重なる横暴を受けて監察官制度を導入した兄王はその制度の成功性を見るため、弟を各地に派遣した。その一環でベルシュタイン家にも1週間ほど滞在したことがある。

中庭を散策していた時だった。微かに聴こえた弦の音に惹かれて奥まった場所にある離れのようなところに辿り着いた。

門には衛兵がおり、厳重な警戒が敷かれていた。

「中には入れないのか?」

「申し訳ありません。ここには誰も入れてはならないと主より仰せつかっております。」

仕方なく近くの木に登ってみた。見えたのはごく小さな女と男の影。男はまだ10歳過ぎの男の子のようだったが、後ろ姿しか見えなかった女の方は判断しかねた。

拙さがあるのにその音はレオを惹きつけた。無邪気なようで、成熟した響きのある音。次の日、頭から離れなかった音を思い返しながらイザークに聞いてみた。

「あの離れには誰がいるんだ?ハープの名手のようだが。」

冷静で動じないイザークが返答に窮したのをレオは見た。まさか聞かれると思っていなかったのだろう。

「.....父の気に入っている楽師です。人見知りで誰にも会いたくないと言うのであそこに住まわせているんですよ。」

「その割には厳重な警備だな?」

「一度周りの森でイノシシが出たのです。それ以来楽師が怖がるものですから。」

それ以上聞くなという圧がイザークにはあった。辺境伯が気に入っているという楽師を詮索するのも野暮だとそれ以上聞くことはしなかった。

数年後だった。兄王にそろそろ結婚はどうかと尋ねられたのは。

「お前もそろそろ身を固めてはどうだ?国内ならそれなりに釣り合いの取れた者もいる。」

「ご冗談を。まだ1人に縛られるつもりはありません。」

だがその時、ふとあの音を思い出した。もう一度考えた時、やはりイザークの言っていたことはおかしいと気づいた。

あの音は若かった。見えた姿も男の子の母親と言えるほど歳を取っているようには見えなかった。

(もしあの女が妙齢ならば)

確かめなければならない。そう思い次の日にはベルシュタイン家へ馬を飛ばした。

「考えていたんだが....あの離れの女、楽師ではないな?」

「そんなことをお話するためにここまで来られたのですか?」

「結婚を兄に急かされてな。あの音の主なら悪くないと思っただけだ。」

「申し訳ありませんが、諦めてください。あの楽師はもうおりません。」

イザークの目には影が宿っていた。それは同時にあの女が楽師でないことを示していた。

だが聞けなかった。イザークの顔を見れば、聞くことはできなかったのだ。

あの時聞いていればーーーー

「殿下?」

「ん?ああ、悪いな。続けてくれ。」

「そうしてベルシュタイン家に滞在していた家族ですが......4年前、謎の火事で死んでいます。」

「死んだ?」

・・・・・

「記録ではそうなっています。ベルシュタイン辺境伯が信じているかは分かりませんが。」

「こればっかりは本人に聞いてみるしかないが....何故火を放ってまで出たんだ?養子になるのはもうすぐだったんだろう?」

「その辺りも曖昧です。火事があった日はセラ様の16歳の誕生日だったのです。」

「養子にするには王の承諾がいる。兄に聞いてみるか....」

「覚えてらっしゃるでしょうか。」

「分からん。聞いてみる価値はあるだろうな。とにかくご苦労だった。約束通り休みはやるからゆっくりして来い。」

「本当に良いのですか?」

「ああ、どうせ他も結果待ちだ。動く時は一気に動く。今のうちに休んで来い。」

「変わられましたね、殿下。」

「なんだと?」

「以前は休みをやると言ってもいつの間にか違う仕事が増えて慈悲などなかったのに....」

「取り消して欲しいのか?」

「滅相もありません。私はセラ様に感謝しているだけです。」

「よくしておけ。だがまあ、ベルシュタインの血なら問題はないな。」

「火を放っているのは大問題です。下手すれば処刑物ですよ。」

「火を放ったのがセラとも限らないだろう?ベルシュタイン家にとっても王家と関係を結べることの方が火の所在を知るより利益になるはずだ。」

「それはそうかもしれませんが....」

「少し出る。支度しろ。」

「どこへ行かれるので?」

「決まってるだろ。兄のところだ。」

 

ある程度予想されていた方もいらっしゃるとは思いますが、セラの素性が明かされました。

王は何と言うのでしょうか。

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