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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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夜香が誘う動揺

部屋は甘くも温かい匂いに包まれていた。

いつもと違う香りのする部屋はまるで違う部屋に来たかのような錯覚を起こす。

「どうだ?ちゃんと好みに合ってるか?」

「はい、何だか落ち着きます。アンバーウッド...ですか?」

「今日買った物を調香師に渡して調香させた。夜だしアンバーウッドが強く出るようにさせている。どうだ?」

「確かに昼間匂った時は強すぎるように感じたのですが、今は逆に丁度良いですね。」

「香とは不思議だ。時間や場所で変わってしまう。」

「甘い匂いは苦手だと思っていたのですが....種類によりますね。」

「お前は表面的な甘さに惑わされるような女じゃないからな....にしてもムスクをやめたのにこれもどうなんだ?」

最後の方は何故か小声で聞こえなかった。にしてもこの匂いは落ち着くのだが少し変な感じがする。レオと2人でいつも寝室にいる。でも何も起きることはない。それを当然だと思っていた。髪に触れる手を今日は妙に意識してしまう。硬くて大きい手、優しい手つき、落ち着くと思っていたものが今はセラの鼓動を速くさせる。

「レオ様.....」

「何だ?」

「あの、やっぱりこの香りは.....」

「落ち着くと言っていたのにどうした?俺に触れられて....変な気分にでもなったか?」

「それはっ.....」

思わず振り返った頬は熱い。レオは冗談で言ってる。なのにこんな反応をしたら意識してると言っているようなものだ。

「....あんまり可愛い顔をするな。我慢できなくなる。」

「なっ.....」

「はぁ....まさかそんな反応すると思わないだろ。いつも俺が何言っても無反応な癖に....」

「それは....何だか香りで落ち着かなくなって....」

「....なあ。今すごい可愛い顔してる。気づいてるか?」

「何言ってるんですか....」

「今日はゆっくりするつもりだったんだがな....セラ、今日は戻れ。俺がもたない。」

「ハープは....」

「お前、俺に欲情されながら弾きたいか?」

「そ、それは....」

「分かったら早く出ろ。俺の気が変わる前に。」

返す言葉もなく部屋を出た。

頬の熱はまだ治らない。誰にも顔を見られたくなかった。鏡なんてなくていい。今の自分の顔なんて、見たくない。この感情が何かなんて、知らなくていい。

心が触れて欲しいと叫んだことも。全部、なかったことにすればいい。

(もういや....)

泣きそうだった。どんなに苦しくても、泣いたことなんて殆どないのに。 

好きな香りに囲まれて弾けると思うと嬉しかったのだ。どんなに感情を掻き消しても、残る香の匂いは消えてはくれなかった。


 

個人的に、お気に入りの回です。

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