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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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香を識る時間

「セラ、こちらへ。」

たまに呼び出しを受けるセラがどこへ行っているのかは聞かないことが暗黙の了解となっていた。連れて行かれるのは昼間ならレオの執務室が多いのだが、今日は寝室のようだ。

「失礼します。」

「セラ、来たか。」

部屋には見たことのない男がいた。テーブルには美しいガラス細工で作られた小瓶が並んでいる。

「セラ、商人のダフトルだ。俺はいつも彼から香を買っている。」

「ダフトルと申します。以後お見知り置きを。」

「セラと申します。」

物静かな老商人はその口の固さで信頼を得てきたのだろう。

「ダフトルは東洋の香まで幅広く取り扱っている。色々試してみるといい。」

「殿下はアンバーグリス、ベチバー、カンファー辺りがお好みですな。ムスクは最近はおやめになったようですが。」

「ムスク....医療的にも非常に貴重で効果の高いものですが、おやめになったのですか?」

「あ、ああ....医療にはいいんだろうが、俺は健康だからな。」

「でも、使われていたんでしょう?」

レオの視線が泳ぐ。何でそんなに気まずそうなんだろう。

ダフトルはどこか楽しそうだ。

「殿下もまだまだお若いですな。さ、試してみなされ。医療の知識をお持ちなら難しいかもしれませんが、純粋に香りを楽しむのも良いですぞ。」

「試してみたいのはあるか?」

「いつも殿下が使われているものを試してみたいのですが...」

「ああ、それならこちらです。」

差し出された3本の瓶。順に試してみる。

「あ、これです。この匂いが好きで。」

「アンバーグリスですか。甘さを残しつつ深さのある香ですな。」

「他は苦手か?」

「いえ、自分が纏う気にはなりませんが、殿下の纏われる香りとしては合っているように思います。」

「アンバーグリスがお好きならこの辺りはどうですかな?」

そう言って差し出された2本を試してみると確かに好みに合った。

「甘いのに落ち着きます。2つとも木ですか?」

「ええ。ローズウッドとサンダルウッドです。」

「ローズウッドは確かに合うな。甘いのに品があって、他にも呑まれない強さもある。」

「そうでしょうか。」

「ああ。少し甘さがある方が好みか?それならこれも試してみるといい。」

「アンバーウッドとベンゾインですな。私も良いと思っていました。」

ベンゾインは温かい、安心する香りだ。例えるなら夕暮れだろうか。アンバーウッドは.....

「夜....でしょうか。微かに渋みがあって好きですが昼には少し重い気がします。」

「夜使うんだからいいんじゃないか?」

「それもそうかもしれませんね。でも選ぶなら違うのにします。」

「何言ってるんだ?5つぐらいは買う予定だった。今までのが気に入ったなら丁度5つだ。」

「流石に多すぎやしませんか?」

店に連れて行かなかった理由はこれか。店に入れば値段を嫌でも意識してしまう。

「多くない。どうせ混ぜて使うんだ。色々試せていいだろ?」

「なんだか薬の調合みたいですね....」

「似たようなもんだ。試さないと好きなものも分からない。ダフトル、今言ったものをくれ。」

「あ、ちょっと....」

この商人は口は固いが手は速い。薦める商品も的確だった。非常に有能だ。自分がもし商人になっていたらここまで有能だったとは思えない。

「また頼む。グレータ、見送りを。」

「かしこまりました。」

反論の余地もなく気づけば商人は屋敷を出ていた。置いてけぼりでも喰らった気分だ。

「夜が楽しみだ。早くに聞くんだったな。」

楽しそうなレオを見るとまあいいかと思ってしまうのだから何とも言えない。

「仕事に戻ってもいいでしょうか?」

「ああ。後でな。」

 

皆さんはお好きな香りはありますか?

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