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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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言えない理由と、叶わぬ願い

「レオ様、お願いがあるのですが。」

滅多に自らお願いなどしないセラに言われて期待しなかったわけじゃない。

「なんだ?珍しいな。」

「私を薬師としての採用に変えていただくことは出来ないでしょうか。」

そう、どうせお願いなんてこんなものに決まってるのだ。

「....お前が頼み事をしてくれるのは嬉しいが、それはどこから来たんだ?」

「今日グレータ様が頭痛を感じてらっしゃったので一緒に医務室に行ったのです。そしたら薬師にならないかと誘いを受けました。」

「....お前もそっちの方がいいのか?」

「違和感はありません。しばらくその仕事をしていたので。」

「......考えなかった、わけじゃないんだ。」

「そうなのですか?」

言いにくい。実際セラがその可能性に気づくことを危惧していた。だから医務室からは遠ざけていたのに。

「....夜だけじゃない、昼にもお前を呼びたい時に呼びにくいだろう。」 

「夜は仕事終わりの時間もそこまで変わりませんし問題ないと思いますが....」

その通りだ。それでもレオが渋る理由はあまりにも自分勝手で言いたくない。

薬師になればセラは患者を優先する。昼呼びたくとも患者がいればセラは来ても嫌な顔をするだろう。そう思うととても薬師にしたいとは思わなかった。

セラは薬師になることを望んでいる。その方が彼女の性に合っていることも分かっている。

「...難しいのであれば良いのです。困らせてしまって申し訳ありません。」

違う、そんな顔をさせたいわけじゃない。このままでは折角お願いなんて彼女にとったら勇気のいる行動を無駄にしてしまう。

「セラ、お前は悪くない。俺には好きなだけ頼み事をしてくれて構わない。ただ、今侍女になったばかりだろう?ようやく周りも落ち着いてきてるからもう少し経ったら考えよう。」

狡いと、思う。理由をつけて縛り付けておいて、それでも自分に頼って欲しいなんて。

「...それはそうですね。いきなり薬師になれば皆混乱してしまいそうです。またレオ様が良いと思われる時で構いません。」

納得はしても、少し残念そうな顔を浮かべるセラに、胸が痛んだ。セラの望みを全て叶えてやりたいと思う。金も、地位も持つレオだがセラの望みはそれらで解決出来るものではなかった。

「セラ」

呼ぶと顔を上げる。彼女の名前を呼ぶのが好きだ。

「医療の仕事は好きなのか?」

「そうですね。人がそれで助かり、喜んでいるのを見るのは好きです。ただ、本当に医者になるには向いているとは思いませんが。」

「どういったところが?」

「性格的に論理で割り切れないところがあるので。つい感情を優先して、判断を誤ってしまう時があります。」

意外なようで、意外じゃない。菓子を食べる時の反応、気が抜けると豊かになる表情、レオの軽口にもノってくる性格を考えると本来の彼女はもっと感性豊かで素直なのかもしれない。

「お前はそれでいい。ただ、人のことばかりで自分を疎かにするなよ。」

「別にしているつもりはありません。」

「自覚すらないのがなあ...ならせめて俺のところにいる時ぐらい、気を抜いておけ。俺を優先しなくていい。」

「どう考えても1番出来ない立場の方だと思うのですが。」

生まれて今ほどこの立場を憎んだことはない。

セラのためなら、田を耕して生きることになっても構わないとすら思っているのに。

「....例え気が抜けなくても甘えていい。願いも、叶うかはともかくちゃんと口にしろ。いいな?」

「...善処します。」

立場を変えられないのなら、彼女の認識を変えてもらうしかない。

戸惑うセラを見ながら、小さく決意した。

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