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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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静かな朝、永遠の誓い

静かな朝、永遠の誓い

夜明け前、起こされるより早くに目が覚めた。セラは普段祈らない。それでも今日は促されるまでもなく、祈りたいような気になった。

婚礼衣装を見に纏えば、今日がその日である事を現実として視認させてくれる。

いつもは騒がしいセリスも、今日ばかりは静かに衣装を調整していった。



眠れなかった夜。待ちきれなかったのか、緊張感か。どちらかは分からない。何度も見た夢が今日、現実になる。

礼装に着替え、手袋を嵌める。式は、全てを美しく行わなければならない。剣を持つか否か。迷った末持つ事を選択した。セラを、守るために持つ剣。2度と傷つけない。その誓いも込めて。

結婚式の朝は、静かに更けていく。



早く、長く感じた朝からの時間。門を開ければ人と、誓いの祭壇がある。脈打つ心臓を抑えるよう深く息を吸う。隣のエルシウスは変わらぬ表情で門を見つめていた。低く、ゆっくりとした音楽がもうすぐ扉が開く事を伝える。

「開きます。」

荘厳な門が開け放たれ、エルシウスの腕を取り祭壇に向かって歩いていく。ヴェールを被ったままでは、周りの姿はぼんやりとしか見ることができない。祭壇数歩手前で、エルシウスが手を離す。1人で祭壇へと向かう数歩。その先にはこの先の人生を共にする人が待っている。

誓いの儀。問われる文言に答え、交わす言葉。

「私はセラフィーネを妻として選び、生ある限り、その選択を裏切らない。」

ただの、儀式の言葉だ。けれどその言葉にはそれ以上の重みが確かに乗っていた。

「私は、王弟レオポルトの妻となり、生ある限り、その歩みに応える。」

儀式の言葉は短くしようと言った。それで良かったと思う。これ以上の言葉なんて、必要ない。

指輪を交わす目が交わる。ヴェール越しでも見えるその目は愛と幸せに満ちていて、この式の意味を思い出させてくれるようだ。

レオが、ヴェールを上げる。今日初めて見えたその顔と会場。光の明るさが、眩しく感じる。誓いのキスと共に祭司が高らかに宣言する。

「ここに、

神の御前と王国の法のもと、

王弟レオポルトとセラフィーネが

正式に夫と妻として結ばれたことを宣言する。」

今この瞬間、セラはレオの妻となり、王弟妃となった。

全ての不安を、この人と共に乗り越えられるように。誓いの言葉に当てられたかのように胸の中で祈りながらレオの手を取り、拍手に送られて退場した。

控えの間に入ると、やっと息ができた気がする。そんな事を思っていると横から大型犬さながら飛びついて来た者が1人。そんな人何人もいたら困るのだけど。

「やっとだ……これでお前は俺の妻になった。」

「なんだか嘘みたいですね。」

「嘘じゃない。今日から俺たちは新居に帰る。そしたら俺は……お前に触れられるんだろう?」

そうだ。そのこともあった。レオはきっと気にしない。そう分かっていたって気になってしまう傷跡は女の性だろう。

「……そうですね。」

「セラ、不安はちゃんと言え。今もだ。妃にそんな不安気な顔をさせる情けない夫であるわけにはいかないんだ。」

レオの方が余程この結婚に対して準備ができている。セラはまだ少しだけ、心許ない気がしているのだ。

「……まだ少し、実感が湧かないようです。そのうち慣れるんでしょうか。」

「俺は生まれてからずっと王族だ。お前は違う。きっとお前にとったら慣れないことも多いだろう。その度にちゃんと俺に頼れ。間違っても1人で泣いたりするなよ。」

「……ありがとうございます。」

「そのうちその敬語も取れる日が来る。楽しみだ。」

来るのかな。そんな日が。レオと呼んで、友のように話して、まるであの川縁が正式になるように。

「そろそろ祝宴へ向かおう。挨拶だけして、夕方ちゃんと話せばいい。」

言葉通り、昼間の祝宴は本当に形式的なもので終わった。アラリックやエルナも来ていたが、他の客のこともあり、挨拶するのが精一杯だったのだ。

夕刻に開かれた私的な祝宴になると、ようやく張り詰めていた気が少し緩んだ。見知った人ものだけで開かれる宴。

リーリエが一言、祝福を述べて立ち去った。承認の意を伝えるためだろう。

「さて、ようやく気楽に話せるな。改めておめでとう。レオ、セラ。」

「ありがとうございます、アラリック様。」

「折角だ。お前に乾杯の音頭は取ってもらうか。」

「勿論だ。さあ、レオとセラの結婚を祝って乾杯!」

「エルナ様も、来てくださってありがとうございます。」

「お前らとは戦友みたいな感覚だ。いつでも呼んでくれ。」

「レオ、名付け親の約束、忘れてないな?」

「当たり前だ。誰にも譲るつもりはない。」

「セラ、おめでとう。」

「イザーク様。」

「やっと君を妹として迎えたと思ったらあっという間に出て行ってしまった。少し寂しいよ。」

「……私も、寂しいです。」

「実家にはたまに帰っておいでよ。また狩に行こう。」

「はい、是非。」

「王弟殿下、ちゃんとセラを帰らせてくださいね。私の妹でもあるんですから。」

「そう睨むな、イザーク。ちゃんと実家には返す。セラにも怒られたくないしな。」

「セラ様には頭が下がりっぱなしですね。」

「クシェル、お前こんなところでまで言うな。」

楽しい笑い声が響く。ああ、幸せだ。そう思った。こうやって、祝福されて。私は今、人生の中で感じたことのないものを感じている。きっと、それが怖いんだ。

「セラ様、お疲れですか?」

「大丈夫よ、アシュレイ。少し気が抜けちゃった。」

「良いことです。後で初夜が控えております故。」

「ちょっと……折角忘れかけてたのに。」

「1番大きなことでしょう。大丈夫です。あれほどセラ様にゾッコンの王弟殿下です。必ず優しくしてくださいます。」

「もうやめて……」

夜が更けていく。セラが王弟妃となった記念の日が、終わろうとしていた。

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