願う幸せ、祈れぬ幸せ
願う幸せ、祈れぬ幸せ
「おい、どういうつもりだ。」
レオの隣にやってきたエルナを睨む。
「まあいいだろ。少しぐらい。」
「俺はあの初手のドレスに階段で痛む頭を何とか慰めてるんだ。」
「お前の事情も分かる。だが私はアラにも幸せになって欲しいんだ。例えそれが1日の夢でもな。」
エルナはアラの兄妹だ。そしてエルナの言う意味も分かる。
「…………」
「なんだ、そんなに自信がないのか?」
「相手がアラだからな。あいつは俺より王の器を持った強い男だ。」
「驚いた。お前があいつをそこまで評価しているなんて。」
事実だ。真面目で誠実な男。でもアラはそれだけじゃない。レオの嘘にも騙されず、真っ直ぐにレオの核を見てしまう。それはきっと、セラが好む性質のはずだった。
ふと後ろを振り返ると誰もいないことに気づく。
「おい、いないぞ!」
「ん?本当だな……あ、あそこだ。」
そこには嬉しそうに菓子を頬張るセラとそれを緩んだ顔で見ているアラ。
あの顔を、見せるのが自分だけでなかったというショックに胃は正直に痛み出す。
「……いい雰囲気だな。」
「やめろ……俺は既に大ダメージを喰らっている……」
「なのについて行くのか?」
「当たり前だ。間違いでも起こせば流石の友でも黙っていられん。」
すると2人は子供たちに何やら話しかけられている。動揺したアラリックを見るに妃だと間違われでもしたのだろう。笑顔で子供たちと話し、花冠を被せられたセラはまるで――――
「どこかの精だな。」
「呆れた。お前がそんなに盲目になるとは。」
それと同時にセラを見つめるアラの顔を見ると複雑な感情を抱いてしまう。叶うことはない。あってはレオが困る。だが――――
「俺だって、あいつに幸せになって欲しいと思ってる。」
「なんだ、随分素直だな。」
「……あいつが8年間、負ってきたものの1割も俺は分からんだろう。だがな。」
たまに来る便り。そこにはつらつらと母の状態、父の状況、自分がやっていることを連ねてあった。本来、隣国の王弟に流してはいけないようなこと。それをせねばならぬ程、追い詰められていたのだ。
「アラは、俺にとっても大事な友なんだよ。」
ついて行くと2人は髪飾りを売っている店へ入っていった。
「贈り物でもする気なのか……」
「お前あんまり心が狭いと嫌われるぞ。」
「黙れ……」
「さっきまでの素直さはどこ行った。」
「……仕方ないだろ。」
心の狭いことぐらい理解している。だから焦るのだ。レオとまだ婚約した訳ではないセラにはまだ、選択の余地がある。
中々出てこない2人に痺れを切らしそうになった。
「……入る。」
「お前ここで私と斬り合うか?」
それは遠慮したい。レオとて腕には覚えがあるがこの国随一の将軍となれば少し荷が重い。
「お、出てきたぞ……あれは……振られたな。」
エルナの言う通り、2人の顔は酷く落ち込んで見えた。ゆっくりと何か話しながらセラが泣いているように見えるのは気のせいか。ふいに2人が路地裏に入った。走り出そうとするレオをエルナが止める。
「アラを信じてやれ。」
「……分かってるんだ。」
時間が、異様に長く感じた。出てきたアラは悲しくもスッキリとした顔をして、セラは俯いたままレオの方へ歩いてきた。
「ほらな。心配するなって言っただろ。振る方も大概傷つくんだ。怒ったりしてやるなよ。」
「……分かってる。」
セラが、目を合わそうとせず横を歩き出す。
「……今日、レオ様のお部屋に行ってもいいですか?」
「は?あ、ああ。勿論……大丈夫か?」
「ちょっと……大丈夫じゃないです。」
「……そうか。なら慰めてやらないとな。」
セラを目にしたら怒りと嫉妬が溢れると思っていた。だが弱ったセラを見るとそんなものはどこかへ行ってしまったようで、夜、友との晩餐の方への緊張が勝っていった。




