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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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初めての恋を、手放す時

初めての恋を、手放す時

アラリックの想いを知ってか知らずか、エルナは場所を変わってくれた。

 「エルナは街を案内してくれましたか?」

「いえ、つい話し込んでしまいました。」

「仲良くしてやってください。あんな風に男勝りなので友人と言えば男ばかりです。」

「私も友人はあまりいないので人のことは言えないでしょうか。」

眉を寄せて言う彼女はどんな生い立ちなのだろう。

「カルディアとは随分雰囲気が違うでしょう。」

「ええ、そうですね。土地の違い、軍国としての違いが街にも現れるものなのですね。」

「ええ。どこか入りたい店はありますか?あればご案内します。」

「そうですね……あの薬草を扱っている店に行ってみても?」

「もちろんです。」

セラは薬草を眺めて何やら納得した表情を浮かべている。

「カルディアとは違うのですか?」

「カルディアにはない薬草が沢山あります。これを輸入出来ればいいんでしょうけど……」

「考えてみましょう。採集量にもよりますが不可能ではありません。」

「是非、検討してみてください。」

「セラは、何故医療の知識を持っているのです?」

「弟の身体が弱く……ずっと独学で学んでいたのですが2年間、滞在した村で医者に教わりました。」

村。令嬢が訳もなく滞在するとは思えない。

「菓子は好きですか?」

その瞬間セラの目が輝いた。答えなんて聞くまでもない。

「……ははっ、答えなんて、聞くまでもありませんね。行きましょう。」

街角のパン屋に連れて行って、胡桃パイを買う。

「おや、新たな王が買ってくださるとはなんたる光栄。」

「いい匂いがしたのでな。はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。……美味しい!」

キラキラした目。あんなに大人びた顔をしていたセラが、急に子供みたいになる。

(可愛い……)

浮かび上がった文字を必死に打ち消した。 

「すごく美味しいです。ありがとうございます。」

「喜んでくれたならよかった。他に行きたい場所は?」

 すると子供達が駆け寄ってきた。

「王様、その方はお妃様ですか?」

普段から受け流せる言葉に動揺してしまう自分が情けない。

セラが、膝をついて子供達と目を合わせた。

「私はお妃様ではないわ。そうな風に見えた?」

「はい、お妃様のように綺麗な髪と目とドレスです」

「でも私にはティアラはないわよ?」

「あ……ならこれ。はい、どうぞ。」

 子供がセラの頭に乗せたのは花冠。

 くすくすと笑うセラは愛おしそうに子供達を見つめている。

「あらまあ、ありがとう。なんだか本当にお妃様になったみたいだわ。」

「だって、今王様とでーとしているんでしょう?」

「ええ?違うのよ、私はお隣の国から遊びに来ているのよ。王様は案内をしてくださっているの。」

「そうなのですか……私は王様のお妃様を見るのを楽しみにしているのです。」

遂に子供にまで望まれるとは。耳が痛い。

「きっとその内見れるわ。またね。」

 手を振ると子供達は去っていった。

 立ち上がって振り返ったセラに、思わず彼女が本当に妃であったならと思わずにはいられない。

「花冠まで被るとまるでどこかの精のようだ……他に、行きたい店を探していたんでしたね。」

「他……あ、あの。髪留めなんかを売っている店はありますか?」

「髪留め?ええ、ありますよ。」

あまり飾りに興味のなさそうな彼女だったが意外と好きなんだろうか。

入ったのは宝石をあしらった装飾品を扱う店だ。

「可愛い……!」

「好きなのですか?」

「いいえ、ここに来れなかった侍女にお土産を買って帰ると約束したのです。」

なるほど。義理堅い理由に納得がいく。

セラは2つの髪留めを手に取った。

「悩まれているのですか?」

「そうですね。どちらがいいかと思って……」

「その侍女は、どんな侍女なのです?」

「とても明るくて、侍女の中では末っ子です。でもよく気も回るし入れてくれるミルクセーキは美味しいのです。」

「主がそこまで見てくれる侍女は幸せ者ですね。それならガーネットが良いのでは?」

「ガーネットですか?」

「ガーネットは変わらぬ友情や愛情といった意味があるそうですよ。」

「それはピッタリですね。ではそうします。」

 会計を済ませたセラに聞く。

「セラは?何か買いませんか?」

「私は……そのつもりはありませんでした。」

「では私から一つ。よければ使って下さい。」

「え?」

「似合うと思ってつい。あの宝石ほど重みはないでしょう。」

困り顔のセラ。やはり想う相手がいるのかもしれない。

「……一つ聞いても?」

「はい。」

「……想う相手がいらっしゃいますか?」

「えっと……何故そう思われるのです?」

「私の好意に気づいているでしょう。それは私が王だからですか?それとも他にいるから?」

「……私には、心に決めた相手がいるのです。」

ああ。やっぱりそうだった。これ程美しく、誇り高い女性を他の男が放っておくわけがない。

「……私に付け入る隙はありますか?」

「……私は、アラリック様の友と諍いになって欲しくありません……。」

「まさか……」

泣きそうに、決意を持った目で見上げたセラが言う。

「はい。私の恋人はレオ様です。」

「……参ったな。通りで今日は睨まれているわけだ。……レオが相手なら仕方ないですね。私は大人しく身を引きます。でもあの宝石と髪飾りは持っていて下さい。私が、初めて誰かを好きになった証だから。」

「初めて……?」

「ええ。こんな感情とは無縁に生きてきました。それが貴女に会った瞬間、芽生えた感情に自分でも驚いた。誰かのことが気になって、触れたいなどと、思ったのは初めてです。しかしレオか……それは敵わないな。」

「逆ではないでしょうか。」

「逆?」

「普段のレオ様なら階段の時点で怒り出しています。なのにあんなに大人しくしているということはレオ様の方がアラリック様に敵わないと思っているのです。」

普通、恋人に言わないであろう言葉。こう言うところが好きになってしまうのだ。

「……慰めの言葉として受け取っておきます。ならそろそろレオに返さないといけませんね。」

名残惜しい。今ここで手放せば彼女は2度と戻って来ない。

気づけば手を引いていた。

路地裏で抱きしめたい彼女は細く、女の脆さを初めて知った気がした。そして失う痛みも。

「……たった数日だ。それなのに貴女を手放さないといけないと思うとどうしても痛い。」

ゆっくりと、手を離す。セラは泣いていた。

「……こんなこと、レオ様には言えませんが私もアラリック様には不思議なほど気を許してしまっていました。私のようなものを好いてくださって、ありがとうございます。」

「セラ、涙を拭いて。私は大丈夫ですから。」

振られた男の精一杯の強がり。

「せめて最後、笑って下さい。貴女の笑った顔はとても素敵だ。」

セラが、笑った。十分だと思った。


アラリックがいつか幸せになってくれることを1人願うばかりです

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