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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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視察開始、階段から漂う殺気

視察開始、階段から漂う殺気

「セラ様、今日は視察ですのよね?」

 サリアの声が響く。

「ええ、昼過ぎからよ。」

「どちらへ行かれるのですか?」

「街と、王宮内を案内してくださると言っていたわ。」

「でしたら昨日はまとめ髪でしたし……今日はハーフアップにしましょうか。少し丁寧に編み込んで緩めに巻いて。」

「いいわね。」

「ドレスはこちらのスモークブルーなどはいかがでしょう?月光石の宝飾品とよく合いそうです。」

「それでいいわ。」

 この侍女たちに任せておいてドレスや髪で失敗したことはない。セラはいつも適当に頷いている。

「……セラ様。」

「なあに?」

「王と、王弟では立場が全く違います。セラ様はどう思われますか?」

「そりゃあ責任や仕事、負うものが全然違うけどそれだけでは何とも言えないわ。急にどうしたの。」

「いいえ。セラ様は今日もお美しいです。」

「……ありがとう?」

「セラ様、そこは目は伏せず堂々と言うところです。」

「はい、アシュレイ先生。」

ドアをノックする音。迎えが来たようだ。

「今向かいます。じゃあ後で待っててね。」

「ご案内します。」

城門には皆既に集まっているようだった。

「遅くなり申し訳ありません。」

「いいえ。待っていませんよ。今日のドレスはセラの瞳の色が綺麗に映えますね。飾りともよく合っている。」

優しい顔。昨晩から感じている違和感が少しずつ大きくなる。

「侍女がいつも選んでくれるのです。エルナ様が、軍服以外でいらっしゃるのは初めて見ました。やはりお似合いになりますね。」

「こんなもの滅多に着ないから違和感だらけだがな。」

「分かります。私も最初ドレスを着始めた時違和感だらけでした。」

「そうなのか?お前は――――」

「さあ、行こうか。遅くなってしまう。」

アラリックとレオが前に、エルナとセラが後ろに並んで歩いていたがそこには微妙な空気が流れていた。

 階段を前にして、アラリックが手を差し出す。

「手を。階段でドレスは危ないでしょう。」

何となくこの誠実な目には抗えない。いくら隣でレオが殺気を発していたとしても。

「おい、アラ。私もドレスだぞ。」

「兄妹相手にそんなことしてどうするんだよ。それにセラはお前と違って剣を振り回すわけじゃ……」

「あ、いえ。私は馬にも乗りますし剣も振り回します。なんならそちらの方が性に合っています。」

 アラリックがキョトンとした顔をする。そう言えばそうだ。アラリックはベルシュタイン家の令嬢としてのセラしか知らない。

「そうなんですか。強いなら安心ですが、階段は別です。足元は気をつけてくださいね。」

大して気にした様子のないアラリックは変わらずセラの手を引いている。

降り切れば流石に手は離されたが見つめる目は変わらない。鈍いのか鋭いのか分からない新王は何となく張り詰めた空気を物ともせず穏やかに告げた。

「さあ、街へ行きましょう。」


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