地獄の視察前夜
地獄の視察前夜
「なあクシェル。」
この始まりにも慣れてきた。大方アラリック様とセラ様のことだろう。
「この様子では予想が当たりましたか。」
「大当たりだ。アラリックの奴、セラにどう考えても惚れている。」
「アラリック王子……じゃないですね、アラリック王も鈍そうですもんね。そういう恋心には。」
「そこがな……セラも全く気づいていない。晩餐会で普通に名前を呼ぶし楽しそうに話しているし、何も食べた気がせん……」
聞いている分には最早面白いが本人に取ったら地獄だ。
「わぁ……流石に同情しますね。それは。」
「しかもコアルシオンの宝石の首飾りを送ったそうだ。普通やるか?いくら恩人だからってやらないだろ。それを下心と言うんだ。」
「誠実さからやってそうなのがまた恐ろしいところですね……」
「明日の視察のことを考えると今から胃が痛い。クシェル、俺が爆発しないように祈っててくれ。」
「私も隣から様子は見ておきます。しかしこれは問題では?アラリック王が惚れた相手との結婚のための交易権を出すでしょうか……」
「そこなんだよ……だからあんまり波風立てたくないんだ……」
主も必死なのだ。セラ様のこととなると小さくなる背中に主が可愛らしく見えるのは内緒にしておこう。
「まあ1番いいのは2人とも自覚してセラ様が綺麗さっぱり振ってくださることですかね。」
「その恨みとか言って交易権出さんとか言わんだろうな……」
「そこまで心の狭い方ではないと思いますよ。貴方様と違って。」
「一言余計だ。」
膨れっ面の主を横目に明日の地獄の視察を思い、天を仰いだ。




