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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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誠実な王と無自覚な令嬢に挟まれ、ひとり煮え立つ男

誠実な王と無自覚な令嬢に挟まれ、ひとり煮え立つ男

セラと、アラリックの距離が近い。気のせいだろうか。

夜の晩餐会。全ての結果報告をしたいと集まったのはアラリックにレオ、エルナ、そしてセラの4人だった。だが何かがおかしい。セラの椅子を引き、さらりとエスコートをしたのはレオではなくアラリックだった。セラもアラリックに対してそれなりに気を抜いているように見える。

「それで、結局なにがあったんだ?」

「まずは俺から話そう。まずはアマリエル様と共に塔の悪事を暴いた。そしたら戦が既に始まっているとアンツェルーシュに告げられた。そうだな?」

「ああ。それで俺は慌ててカルディアに戻り、エルナはアンツェルーシュを捕えた。」

「俺も何やら王宮が騒がしいと思ってふらつく身体を抑えて外に出て事情を聞いた。流石に途方に暮れているとエルナがやってきた。」

『アラ!まずいことになった!」

『戦が、始まっているだと?』

『もう戦を止められるのはお前だけだ。私は行って少しでも時間を稼ぐ。1日ぐらいなら持つはずだ。』

だが俺が言ったところでアンツェルーシュ派は言うことなど聞かない。そこで俺は最後の望みに賭けた。

「それが……」

「ああ。父だ。父が、戦の光景を見てかつての自分を思い出してくれることを願った。そしたら上手く行った。運が良かったな。」

「アラリック様の献身ぶりを父王もどこかで感じられていたのでしょうね。」

「そうだったなら嬉しい。父は今母の元にも通っているんだ。」

「そうなのですか!それはお母様はさぞ喜ばれていることでしょう。」

「ああ。母は父を本物だと思っていない。それでも俺が行くと嬉しそうに話してくれるんだ。」

気の抜けた青年アラリックの顔と、他人行儀でこそあるものの笑顔のセラ。

「……おいエルナ。」

「……なんだ」

「あれはなんだ。」

「……私に聞くな。」

「……お前、セラが俺の恋人だって伝えたか?」

「……いや、忘れていた。」

「どうしたんだい?」

「いや、何もない。それでアンツェルーシュとアマリエル様はどうなったんだ?」

「アマリエル様は王宮外の離れで母娘で静かに暮らされることになった。アンツェルーシュだがまあ勿論というべきか極刑だ。刑も執行された。ただ……」

「ただ?」

「少し、気になることを言っていた。」

「気になること?」

「宝石のことだ。元々偽装ビジネスを行う気はなかったらしい。」

「それが何でやる気になったんだ?」

「本物の宝石を独占していれば力が手に入ると何者かに吹き込まれたそうだ。」

「その何者かは分からないのか?」

「分からん。男だと言っていたらしい。」

「古文書の謎に謎の男か……終わったようで煮え切らないな。」

「その古文書とやらはなんだったんだ?錬金術をやろうとしたって聞いたけど。」

「それは私の方からお話しします。私はアラリック様の毒殺未遂の真相を暴いた後、すぐさま領地へ戻り、敵を誘い出しました。上手く誘われてくれて敵は捕えられたのですが、そこで蘇り狐を見ました。」

「本当にいたのか……」

「いただけでなく驚いたことにその狐は話し始めました。どうやらかつては蘇りの力を持っていたそうですが、今は土のエネルギーが変わってしまい喋る力、見通す力しか残っていないそうです。全ての手引きをしていたアイルデールはその場で捕まり、こちらも極刑に処されました。」

「狐が喋った……?」

「はい。古文書の件ですが、父にも確認したところそのようなものは元々なく、整理を行った3ヶ月以内に何者かが書棚に差し込んだと思われます。」

「その古文書はうちでも回収してある。何か役に立つといいけどな。それにしても喋る狐に謎の古文書に謎の男。本当に終わったのか?」

「まあそう気に病むな。とりあえず戴冠式も無事終わった。今からはお前の時代だ。また怪しい動きがあれば対処していけばいいさ。」

「そうだな。ああ、そうだ。明日の視察なんだが。」

「俺とセラが行くやつか?」

「ああ。セラには伝えたんだが俺が案内する。お前は問題ないよな?」

「セラ……?」

「なにかおかしいか?皆彼女をそう呼ぶんだろう?」

だから、言っていたのだ。アラリックとセラを会わせない方がいいと。こいつらは2人とも無自覚に事を起こすタイプだ。今の名前呼びにしたってどこまで意図があるのか分からない。

隣のエルナが肩を震わせ笑っている。そもそもこいつがちゃんと伝えていればこんなことにはなってないはずなのに。

「いや……分かった。明日の視察な。」

「俺も外に出る良い言い訳だ。セラ、食事は口に合ったかな?」

「はい、どれも美味しくいただきました。」

(こいつらは俺を殺す気か……!)

「レオ、調子が悪いのかい?そろそろお開きにしようか。」

アラリックの気遣いが痛い。この友人のことだ。全てが誠実から始まっているに決まってる。

「ああ。明日に支障が出てもいけないしな。」

そろそろ終わりにしなければ。友人にキレ散らかすような真似はしたくない。

「明日の視察だが、私も行っていいか?」

「俺は構わないよ。エルナの都合さえ良ければ。」

「まあ都合は……なんとかする。私が蒔いた火種だからな。」

「?よく分からないがあまり無理はするなよ。だがセラに取ってはいいのかな?男2人より女性がいる方が落ち着くだろう。」

「そうですね、エルナ様とはお話しする時間も取れませんでしたし。」

「ああ、明日話そう。」

「じゃあ解散だ。また明日。」

廊下を歩き部屋に戻るセラの腕を掴んだ。

「レオ様?どうかなさったのですか?」

「……少し部屋に来てくれないか。」

「えっと……分かりました。」

無言で手を引いて歩いていくレオに不安気なセラ。

アラリックなら、こんな風に不安にさせたり傷つけることもないのかもしれない。

部屋に入りドアを閉める。

「なあ、アラリックと何か話したのか?」

「はい。朝呼ばれて個人的にお礼と詫びが言いたいと。」

「それだけか?」

「恐れ多いことにコアルシオンの宝石で作られた首飾りをいただきました。どうしましょう。」

黒だな。アラリックはセラに惚れた。それに自覚があるないはさておき。

「……お前はアラリックをどう思うんだ。」

「アラリック様ですか?王族なのに澄んだ目を持った誠実な方です。真面目なのにどこか型にハマらない熱いものを持ってらっしゃるからレオ様と仲がよろしいのかと考えていました。」

セラは何も思っていないし何も気づいていない。ここで怒ったところで無意味だ。

「……セラ。」

髪を掬って口づける。叶うなら見えるところに痕でも付けてしまいたい衝動に駆られる。

「……レオ様?」

答える代わりにキスをする。どんなにアラリックが近づこうと、こうして触れられるのは自分だけだ。

「んん……やっ……レオ様」

溶けた目。こんな顔も、声も。アラリックは聞くことも、見ることもできない。

醜い、独占欲。セラに知られたくない。友にまで、こんなに嫉妬しているなんて。

「レオ様?何かあったのですか?」

「……大丈夫だ。セラ、忘れるな。お前は俺のものだ。」

「はい。分かっています。」

素直に答える声に少し安堵して解放する。

「……部屋に戻れ。侍女たちが心配するだろ。」

「そうですね。おやすみなさい。」

そう言ってセラは、頬にキスをくれた。



 

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