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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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王になる日

王になる日

戴冠式。

胸に渦巻くのは緊張、期待、重圧。そしてやっとこの日が来たと言う覚悟と解放の日。

「……今日か」

まだ夜も明けきらぬ中、起こした身体はまるで自分の身体ではないようだ。

沐浴で身を清め、朝の祈りを行い、喉を通らぬ朝食を少しでも詰め込んでいくと刻々と、その時間が近づいてくるのを感じる。

儀礼用の正装へと着替えた。指に嵌める王家の指輪。

もう、後戻りはできない。

望んで王になるわけではない。王になるために生まれてきたわけでもない。そんな自分が王になるのはなんという因果なのだろうか。嵌め込んだ歯車を一つ間違えてしまったかのように。一つの歯車は国そのものの命運も変えてしまう。

扉の奥で騒めく声が聞こえる。遠くに鳴るファンファーレ。死にかけたことは一度じゃない。王族として生まれたものとしての宿命だ。そして、あの日も救われた。その人もまた、この扉の向こうにいるのだろう。

さあ、この刻が来た。

ゆっくりと、軋む音を立てて開かれる扉。瞬間静まり返る広間。その静寂を破るかのように長いファンファーレが鳴り、王の入場を促す太鼓が一音、鳴らされる。

足を、踏み入れた。ただ前を見て一歩。また一歩。近づく祭壇に、心臓は驚くほど静かだ。その静けさに、自分が王になることを受け入れていたことを悟った。

司祭長が進み出る。

「アラリックよ。

 汝はこの国を守り、

 法を尊び、

 剣を正しく振るうことを誓うか。」


もう一歩を前に。

「誓う。」

受け継ぐ王家の剣。一つ一つがアラリックを王にするためのピースをはめていく。

そして、最後。

頭に置かれる王冠。アラリックは、この瞬間この国の王になった。

開かれる玉座への道筋。目をやる余裕がなかった広間へ視線を一度だけ。そこには友の顔、兄妹の顔、そしてアラリックを救ってくれたであろうスモーキーグリーンの瞳があった。

玉座へ腰を下ろした。司祭長が高らかに叫ぶ。

「ここに宣言する。

 アラリックは、

 コアルシオン王国の正当なる王である!」

人々の礼を受け、アラリックは立ち上がった。

「私は、この国の全ての責を負う。

 この剣と、この身を持って国を守ると誓おう。」

静まり返った広間にアラリックの声が静かに響いた。

再び鳴るファンファーレがこの式の終わりを告げる。

集まっているものが順に挨拶をしていく。

友の格式ばった挨拶に笑いを堪えながらあの日忘れられなかった声が聞こえてきた。

「アラリック陛下。

 このような晴れの日にお言葉を許していただき、感謝します。

 陛下の治世が、陛下にとって、そして民にとって安らぎに満ちたものであるよう心よりお祈り申し上げます。」耳に馴染む声と言葉。そして、初めて正面から見た顔。

(綺麗だ……)

心に、感じたこの揺らぎはなんなのか。分からぬままアラリックは言葉を返した。


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