王座の重みと、忘れられな面影
王座の重みと、忘れられぬ面影
父王が最後の仕事だと腰を据えたことによりアラリックは予想外にもちゃんとした静養を取ることができていた。
アラリックが最後に父にした願い。それは母の元を訪れること。そこで何があったのかは分からない。だがこの1週間、父は母の元へ通い続けている。
父が溺れていたアマリエルは王宮外の小さな離れで親子で静かに暮らすこととなった。
エルナの紹介によって付いた新たな医師はまともな男でアラリックも順調に回復していた。
毒をあの侍医に飲まされていた時、苦しみながらも何が起きていたか朧げに覚えている。
『火鉢を使っても?』
穏やかな、凛とした声。その声は真相が暴かれた後アラリックを気遣う声へと変わった。
『飲めますか?』
心配そうな顔。別に個人的な感情など何もなかっただろうが微かに見えたスモーキーグリーンの瞳が嫌に頭に残った。
目が覚めた時、彼女はもういなくなっていた。
聞けば彼女はカルディアのベルシュタイン家の令嬢だそうだ。そしてアンツェルーシュが彼女を狙ったと聞いた。
個人的に非を詫びたかったのは勿論だったが会ってみたいと思った。何故、そんな風に思ったのかはアラリックも分からない。
回復してからは戴冠式の準備、他国とのやりとりなどに忙殺されて思い返す間もなかった。
戴冠式まであと2日。この国が、変わろうとしている。
そして変えるのは、自分なのだ。
その責の重さは日が近づくごとに重くなっていく。
「随分重い顔をしているな。」
「エルナ」
「戴冠式を目前にして恐れをなしたか?」
「……情けないがそんなところだ。」
「……お前1人でやるんじゃない。私も、お前を推す貴族や将軍も。全部使ってやるんだ。勘違いするなよ。」
「……その通りだ。俺の悪い癖だな。」
「はぁ……お前もそろそろ嫁を娶ったほうがいいんじゃないか?王になったお前には支えが必要だろ。」
「……そうかもしれない。」
「なんだ、今日はやけに素直だな。想い人でもできたのか?」
「……まだ、分からないが。」
「なんだそれは……まあお前に求婚されて断るやつも珍しいだろう。上手くいくといいな。」
「ああ。お前にはいつも助けられている。」
「気にするな。腐れ縁の兄妹だ。」
「……そうだな。」
同い年の、母親が違う妹。その存在はアラリックにとって不思議で、だけどいなくなっては困る奇妙な存在だった。
少し軽くなった心に、次なる書類へと手をつけた。




