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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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抱かれて眠る、もどかしさ

抱かれて眠る、もどかしさ

謁見の間に戻ると正にアイルデールが連れ出されているところだった。こちらを見る目は血走り、捕らえられていると分かっていても思わず身構えてしまう程だった。

中へ入ることを許され入ると冷徹と呼ばれる王の所以たる顔で座っている。

セラの姿を認めるとニヤリと笑い、先ほどの冷たい顔は崩された。

「どうだ?褒美は気に入ったか?」

「先に言ってくだされば驚かずに済んだのですが……」

「驚かせるためにやったのだから仕方ないであろう。まあその様子だと喜んでもらえたようで何よりだ。」

「楽しんでらっしゃいますね……?」

「弟の色恋が暇人の唯一の楽しみでな。揶揄うと面白い反応をするからやめられん。で、何だ?部屋のことか?」

「はい。よく考えてみれば今日の部屋のことを聞いておりませんでした。」

「レオと同じ部屋だ。」

「はい?」

「……はっはっはっ!ああ面白い。ちゃんと部屋は用意してあるぞ。」

「……驚かせないでください。」

「レオがあれだけ我慢してるのが信じられなくてな。もうそろそろ死ぬんじゃないか?」

「そんなことで死ぬ人間はおりません。……時にアイルデールはどうなったのです?」

「ああ、あの男か……残念だ。かつてはもう少し識別のある男だったが。あそこまで堕ちるとはな。あの男、クラウスは処刑だ。賊軍作りに麻薬の横行、ベルシュタインの娘の誘拐に人体実験……余罪をあげればキリがない。アイルデール家は没落、妻のフェスタナだが……一度王都の治療院に診てもらった上で見込みがないと判断されれば教会に引き渡される。」

「そうですか……。何とも呆気ないですね。」

「そんなものだ。愚かな人間の所業が、人智の及ばぬ世界になど届くはずがないのにな。……さて、部屋に案内させよう。ゆっくり休むといい。」

侍女の進む方向に何だか嫌な予感がした。予感通り、部屋はご丁寧にレオの隣。ここまで来ると王は楽しんでいるとしか思えない。

部屋はといえばとんでもない広さの部屋に応接間、書庫に浴室まで。王家の紋章のついた天蓋ベッドに金のタペストリーが装飾された部屋はどう考えても王族が使う部屋に相違ない。

「……本当にここなんですか?」

「この部屋をと王より賜っております。」

「……何か謀られていませんか?」

「……そのようなことは何も聞いておりません。」

これ以上聞いても無駄だろう。とにかく疲れた。部屋に入ってゆっくりしたいのも事実だった。

 湯浴みを済ませ、着替えるとベッドにおそるおそる横になってみる。大体ベルシュタイン家の部屋にやっと慣れてきていたのだ。こんな部屋で眠れる自信がない。

 コンコン

聞こえてきたノックに侍女だろうかと開けてみると隣の部屋の主が立っていた。

「遊びに来た。入っていいか?」

「どうぞ……」

「兄王め。してやられたな。まさか隣の部屋とは。」

「どう見ても私のいていい部屋ではないんですが……」

「慣れろ。結婚して遊びに来ればここだ。」

 そんな簡単に口にされる未来が未だに想像出来ないセラは変なんだろうか。

「前回来た時は貴族部屋に泊まったのでその差に驚きを隠せません……」

「どうだ?天蓋ベッド。憧れたこと、ないか?」

「こうなんというか……天井が近いのは落ち着きそうですよね。」

そこなのかという目線でレオが見ている。そこ以外何と言えよう。

「まあいい。どうせ落ち着かないだろうと思ってな。俺の部屋と言ったがここで寝ればいいな。ほら、寝るぞ。」

なんの躊躇いもなくベッドに入るレオの横にそろそろと入ってみるセラ。

入った途端腕を回されしっかりと固定されてしまえば目に入るのなんてレオぐらいのもので。

「な?天蓋ベッドだろうが装飾だろうがこうやって寝れば関係ない。落ち着くか?」

 その耳元での囁きがなければ随分落ち着く。そんなこと言ったら余計調子に乗ってやるに決まってるけれど。

「……レオ様、早くコアルシオンに行ってきてくださいね。」

「何だ、お前の方が持たないか?」

 茶化したように言うレオ。でも生憎私はそんな気分じゃない。

「はい。そうです。こんな風にただ抱きしめられて眠って、なんだかおかしくなってしまいそうです。」

「…………俺が死ぬほど我慢してるのは」

「分かっている、つもりです。」

「……お前にそんなことを言われたら本当に今すぐに襲いたくなる。」

「それは……ダメですけど。」

「ならやめろ。俺を煽るな。」

「だからコアルシオンに行って欲しいとお願いしているのでしょう?」

 頬を膨らませれば落ちてくるキス。

「あんまり可愛い顔するな。俺だって早く行きたい。お前に、婚約を申し込む日が待ちきれない。」

そうだ。結婚前に、婚約。そうやって考えると妙に現実的に考えられて、怖気付きそうになる。さっきはあんなに威勢のいいことを言っていたのに。

落ち着く、愛する人の胸。ずっとこうして抱かれていたい。レオは私に溺れていると言うけれど、私だって彼に溺れているのだ。

「なんだ急に静かになって……眠たくなったか?」

「……はい。」

「……そろそろ寝るか。明日は?」

「イザーク様がまだ用事があるそうで明日は1日自由にしていいそうです。」

「何だと。それを早く言え。ライに会いに行くか?」

「いいのですか……?」

「いいも何も、俺の我儘で会わせてやれないまま事件が起き続けた。いい加減会わせないとライに俺が怒られる。」

「レオ様は、ライに会っているのですね。」

「ああ。愚痴りまくったから恐らく情け無い義兄だと思われているかもな。」

「何を愚痴ったんです?」

「……お前が、あまりにも俺に反応してくれないから」

 そっぽを向いて耳を赤くして。まるで拗ねた子供みたいに。

「レオ様」

「なんだ?」

 膨れっ面にキスをする。そしたら目を見開いた顔。これもまた子供みたい。

「今は違うでしょう?」

「〜っ!お前ほんとっ……!」

「最近レオ様が可愛いと思うことが増えてきました。」

「あのなあ……もうなんでもいい。寝るぞ。おやすみ、セラ。」

おやすみのキスは額に。私は返したかったらどこにするんだろう。

「おやすみなさい、レオ様。」

よく分からなくて、頬にキスをした。

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