兄と、弟
兄と、弟。
王宮にたどり着いたのは夕刻だった。
汗に塗れた馬は足を震わせこれ以上は走れないと音をあげている。
「レオポルト殿下!」
王宮の近衛兵が気づき、駆け寄ってきた。
「ご無事で……王が心配しておられます。」
「すぐに会いたい。会えるか?」
「勿論です。ご案内いたします。」
王宮の廊下が前と随分違って見えるのは飾りか、それともレオの目か。
「陛下、レオポルト殿下が帰還されました。」
「レオ!」
心配した顔。それは王の顔ではなく兄の顔だった。
「兄上……酷い顔です。眠られていないのでは。」
「お前からの便りは来ず、送られてきたのはお前は毒を第二王子に盛った疑いで軟禁され、ベルシュタインの令嬢を捕らえたというもの。おまけに今朝は戦が始まりエイマールが裏切ったと。これで眠れという方が無理な話だ。」
普段いくらレオの前であっても威厳のある話し方をする兄が、砕け散るぐらいには心労が募ったようだ。
「どうやら私からの便りは全て差し止められていたようです。実際私は軟禁されましたが、すぐにセラによって真相が暴かれ1日で拘束は解かれました。エイマールですが……私も事情は図りかねますが撤退したようです。……恐らくベルシュタインの娘が一枚噛んでいると思われますが。」
「大人しく名前で呼んでもいいんだぞ。しかしな……先ほど突然向こうの王が戦争を終わらせる咆哮をして全軍を撤退させたそうだ。」
「はい?」
さっきからおかしいと思っていた。戦争中にしては軍は動いていなさすぎる。
「その辺りもよく分からん。向こうの王は腐敗していたと聞いていたんだが。お前今回の件が落ち着いたらもう一回コアルシオンに行って詳しい事情掘り返してこい。」
「……あの国にはあまりいい思い出がなくなりましたね。」
「なんだ、女に誘惑でもされたか。」
「勿論それもありましたよ。セラは狙われるし……あんな訳のわからん伝承のために。」
「あれもなあ。本当か嘘かよく分からん話だ。お前も難儀な女に惚れたな。」
「戦場を横切った時セラがエイマールの王子を説得したとの噂を聞きました。本当なら一体どんな無茶をしたのかと考えるだけで胃が痛みます。」
「……お前に同情しよう。その女は明日にはこちらに来るはずだ。感動の再会でも楽しむと良い。部屋なら貸してやる。」
「随分な好待遇ですね……」
「今回の外交でお前もセラも酷い目にあったからな。俺からのささやかな労いだ。」
「……有り難く受け取っておくことにします。」
「で?結婚の話はどうなったんだ?」
そうだ。しまった。交易権の話どころではなくて条件を達成していない。
「……やはり出来る限り早くにコアルシオンに向かいます。」
「なんだ急に。」
「結婚の条件です。エルシウスの考えが読めません。」
「コアルシオンの交易権でも取ってこいと言われたのか?」
「その通りです。」
「他にも条件は出しただろう。どれもベルシュタインには悪くないものばかりだ。許してもらえんのか。」
「……念を押されました。一つでも抜ければ婚約の話は無しだと。」
「ふむ……意外と娘思いなのかもしらんな、あの男は。」
「どこでどうしたらそうなるのです。」
「不誠実な男にやりたくないんだろう。実際舞踏会はやらせたがその後の婚約の話などは全て断っているらしいぞ。」
「そうなんですかね……」
「とにかく今日はお前も休め。俺もやっと眠れそうだ。」
「……2人で寝ますか」
「……アリかも知らんな。」
兄弟でこんな冗談を言い合うのはいつ以来だろう。それぐらい、疲れた。そうなんだろう。




