その目に残る微かな希望
その目に残る微かな希望
対面した王子は細く、白く、とてもこの戦場に似合う風貌ではなかった。その顔は怯え、それなのに何かの決意を灯しているようにも見えた。話すつもりで用意してきた言葉はこの瞬間、全て捨てた。
「カルディア王国ベルシュタイン家セラフィーネと申します。このような機会を設けてくださったこと、心より感謝いたします。」
「……私はエイマール国第一王子セレスティノ・フォリヘルムだ。何故其方は私と話がしたいと言った。」
「……恐れながら先に私が質問してもよろしいでしょうか。」
「……許そう。」
「……王子は、何故この戦に参加されたのでしょうか。」
王子の目には迷いが見えた。何か一つ、間違えてしまえば壊れてしまいそうに繊細な王子。
「…………王子、私は今ここに武器を全て捨てます。もし人払いをされても私は王子に手をかけることはできません。」
「……何故そこまでする。」
「……私はただ、王子の気持ちが知りたい。それだけです。」
「………よい。武器を置け。そして人払いを。」
「王子、そのような……」
「いいから聞け!」
側近が諦めたように離れて行く。改めて対峙した王子の目に、希望を見た。まだ、この人は諦めていない。
「人払いはした。何でも話すといい。」
「……では、王子とシャッツェル様のことを伺っても?」
「……それを聞いてどうする。」
「王子とシャッツェル様のご関係は非常に良好だと聞きました。……王子がお持ちの性癖があって尚。」
この話題を出せば動揺するかも思っていた王子は意外にも落ち着いている。
「……やはり知っていたか。それがどうした。お前も私を侮蔑するか。」
「いいえ。……私は、女の身でありながら戦闘の狂気に楽しみを感じてしまう女です。王子は私を侮蔑されますか。」
「いいや、せぬ。人はそれぞれだろう。」
「……シャッツェル様は王子のそのようなところをお慕いされているのでしょうね。」
「それは……分からない。俺が一方的にシャッツェルといたいだけなのかもしれない……」
「シャッツェル様とお話はされましたか?」
「いや……」
「では今回の戦の件は?」
「……出る、直前に話した。何故話してくれなかったのかと詰られた。今もきっと怒っている。慕っていた兄王の国に刃を向けているのだから。」
「……そうですね、怒っていらっしゃると思います。1人で、全てを背負われてしまった王子に。」
「……兄王に刃を向けたことを怒っているに決まっているだろう。」
「いいえ。王子はシャッツェル様と何もお話になられていません。シャッツェル様を失うのが怖かったんでしょう?」
「……そうだ。俺はただ、シャッツェルを失うのが怖かった。」
「今、正にシャッツェル様を失おうとしていることにお気づきですか?」
「……どういう意味だ。」
「シャッツェル様は何も話してくれなかった王子にお怒りのはずです。その上で慕っていた兄王の国に刃を向け、兄王が死んだ。そうなればシャッツェル様は王子といたいと思うと思いますが?」
「だが私たちは夫婦だ。逃げることなど……」
王子が、ハッとする。
「ええ、女は逃げられません。ですが心は逃げられます。王子がシャッツェル様を失うことはなくとも、心を失うことはございましょう。それが、王子の望みですか?」
「……私は、この戦争に参加してしまった。葉も流しカルディアとコアルシオン両国に迷惑をかけた。多くのものの血を流した。そんな私を、今更戻った私をシャッツェルは受け入れてくれるのだろうか……」
「……私の恋人はシャッツェル様によく似ているのですよ。よく怒りますが愛した人には驚くほど寛容です。遅すぎる、というのは本当に全てが終わった後でしょう。今ならまだ引き返せる。」
「…………其方の、言葉を信じよう。エイマールは、この戦争から撤退する。カルディア王国の王には私が直接詫びに向かうと伝えてくれ。」
「……今この決断をされた王子は決して弱い王子ではありません。決して。」
「……初めて会ったお前の方が私を生まれてから知っている母より知っているようだ。感謝する。」
「感謝は、シャッツェル様に。」
「そうだな。では。その者を解放する!傷はつけてはならん!」
エイマール軍から戻るとザシャが待っていた。
「セラ様、ご無事で何よりです。全くあの小男と戦ってる時は心臓が縮み上がりましたよ。」
「そう悪くなかったわ。戻るわよ。」
「話はどうなったので?」
「見てればわかるわ。」
「エイマール軍が、引いていく……?」
「さあ、イザーク様の元に戻りましょう。」




