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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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狐が見ていたもの

狐が見ていたもの

朝を、感じる光。眩しいと感じる目が、今ここに生きていることを感じさせてくれる。

そして今から起こることもきっと、私に生を感じさせてくれることだろう。

「セラ様……起きてらっしゃいましたか。」

「ええ。狩に行くから支度をお願いね。」

「承知しております。本当に私は一緒に向かわなくて良いのでしょうか?」

「ええ。来てもらうと今日は困ってしまうかもしれないから。」

「それでしたら……お気をつけてくださいね。」

「ありがとう、アシュレイ。」

支度をして、護衛2人と共に出る。

北の森へは半刻もすれば着く。ここの森を抜けたのはあの時以来か。

『さあ行きましょう。あの森を抜けます。』

まるで統率の取れない家族を連れて抜けた道。先に対して不安を感じていたあの日。ふと周りを見た時に見えた赤い目と目が合った。

真っ白な毛に赤い目。あれが伝え聞いていた狐。本当に見られるなんて――――

不思議とあの目を見ると落ち着いた。これからの旅をやっていける。そんな気がした。

もう一度、見たいと思う。だけどそれは今日じゃない。

パシュッ!

近くにいた猪に矢を当てる。

「見事ですセラ様!」

と、その時。

後ろから感じる殺気とすんでのところで避けた矢は木に刺さった。腕に感じるのは痺れ。微かに仕込まれた毒。セラを殺さないように、それでも動けなくなるように。

「セラ様!」

「気をつけなさい!背後から狙われているわ!」

かなりの距離から狙われた。もう1発打たせて場所を特定するしかない。道の広いところに抜け出ると予想通り。

パシュッ!

その瞬間身を翻して矢を打ち返す。当たったか――――

「セ、セラ様……」

気づけば囲まれている。なるほど、矢は目眩しか。

「ベルシュタインのご令嬢、ついてきていただきます。」

今回は賊より品のいいのを選んできたようだ。ついでに腕もいい。1人で敵う相手ではないだろう。

「……こちらの兵に手は出さないでくださる?」

「もし来てくださるならば。では――――」

「その前に一つだけ質問に答えて頂戴。貴方たちが雇われているのはアイルデール?それともコアルシオンの宰相?それともどちらもかしら。」

「……答える必要はありませんな。」

そばにいた男を切り落とす。血の滴る剣を男の眼前に向けた。

「……あるわ。殺すなと言う命を受けているはずよ。答えないなら――――死ぬまで暴れてやるわ。」

 表情の変わらない男のこめかみから冷や汗が流れている。

「……なるほど。噂通りのご令嬢のようだ。我々はコアルシオンの宰相より命を受けている。そしてアイルデール卿に引き渡す。これが我々の任務だ。だがそれを知ったところで何ができるのです?」

「何ができるか……ですって?……聞きましたね、お兄様?」

「ああ。ちゃんと聞こえた。さあ、妹を離してもらおうか。」

護衛の1人が帽子を外す。そこから顔を出したのは兄であるイザークだった。イザークが笛を鳴らした瞬間森に潜んでいた軍が男たちに襲いかかった。

「生かして捕えろ。その者たちには父と王の前でよく話してもらわなきゃならない。」

そこからは早かった。訓練された辺境伯家の軍のものに少数の男の集まりが叶うはずもない。

捕まり縛られた男たちを見て事が上手く運んだことに安心していた。

「セラ!」

イザークに押し飛ばされ、木に打ち付けられる。イザークの脇腹を剣が掠め血が流れ出ていた。

「イザーク様!」

男の年齢はよく分からない。だが身なりを見るに貴族だ。(まさか――――)

油断していたイザークが最初の一撃はもらったもののまともに戦えば相手にならない。ものの数激で片がつき、捕まった男は憎しみの目をセラに向けている。

「お前さえ手に入っていればフェスタナは……!」

「アイルデール卿……?」

「あと一つだった!あと一つ、あの狐さえ手に入れば……!」

ふと、奥に目をやった。

「あ……」

「あ、あれだ!あの狐を捕まえろ!早く!」

 喚くアイルデールを置いてその狐に近づいた。

「貴方が、あの時の狐?」

『そうだ。』

「話せるのか……」

「女!早く捕まえろ!」

 後ろから聞こえる声は無視することにした。

「あの時、私を導いてくれたの?」

『私は、ずっとお前を見てきた。この土地から。』

「そう……貴方が蘇りの力を持っているというのは本当なの?」

『私の祖先はかつてその力を持っていた。だが今は弱り、そんな力はない。』

「嘘だ!古文書には書いてあった!葉と、宝石と、お前が集まれば魂は蘇ると!」

『……随分過去の話だ。正しいエネルギーが土に満ち、正しい錬金術師が存在した時代。だが彼らは気づいた。これは間違いだと。だからその古文書は封じられたはずなのに……変だね。』

……それはセラも違和感に思っていた。本来隠されているはずの古文書がアイルデール家のみならずベルシュタイン家、コアルシオンの王宮にもあった。まるで誰かに気づかれることを待っているかのように。

『……まあいい。君には蘇らせたい人がいるのかい?』

「ああ、そうだ。どの治療院でも何もできないと言われた。」

『……私に本当に力が残っていれば助けたかもしれない。だけど君はそのために何人の人を手にかけたんだい?』

「私には……私にはフェスタナが全てだ!他の人間などどうでもいい……」

『娘でもかい?』

「!何故それを知っている……」

『言っただろう?私はずっとこの土地から彼女を見てきたんだ。私たちには話す力、そして見通す力、この2つの力だけは残っているんだよ。』

「……だが娘は妻ではない、出来損ないだ。」

『……そうか。それなら私に君を助けることはできない。君は、君のしたことの裁きを受けるんだ。そして、君の妻の行く末は神が決める。それだけだ。』

「なんだと……!この、使えない狐が!」

『お話は終わりだ。私もあまり長くこの力を使えないからね。スモーキーグリーンの瞳を持つものよ、私はいつもここにいる。忘れないでおくれ。』

「ええ、忘れないわ……。」

狐の姿は煙に巻かれたように消えていた。


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