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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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踏み入れた隣国、歪む宮廷

踏み入れた隣国、歪む宮廷

馬車にエティを入れたのはセラと別れてしばらくした後のこと。セラに釘を刺されていた以上、怖がらせない方がいいと思っていたが何も知らないではいけないと思い、呼んでみることにした。

同乗させたエティは可哀想なぐらい怯え切っていて自分が悪者にでもなったような気がする。

「おい。」

「は、はい!」

「家族は何人いるんだ?」

「か、家族ですか。父と母と、姉、妹、弟がおります。」

「お前以外も働いているのか?」

「はい。姉は奉公に出ております。妹と弟は村の糸を紡ぐ手伝いや鍛冶屋を手伝っております。」

「……俺の立場が羨ましいと思うか?」

「……分かりません。私には、殿下の心のうちも、裏にあるご苦労も何も知りません。」

正直だ。正直だったから、つけ込まれた。

「……セラは、俺の妃になる。その侍女は、狙われ、つけ込もうとするものから主を守らねばならない。お前に、それが出来るのか?」

「私は。」

「自分の愚かさを知りました。私は馬鹿正直でいらぬことを言ってしまうことも。ですが学んで見せます。セラ様のためならば、私は強き盾となるよう戦いましょう。」

 目は澄んでいる。この言葉もまた、正直だった。

「……ならいい。本邸に戻ったらグレータ……侍女長だな。その指導を受けてもらう。容赦ないから覚悟しとけ。」

「望むところであります!」

「だがコアルシオンではセラの名前は一切出すな。存在に目をつけられれば終わる。影のようにしていろ。いいな。」

「承知しました。」

これが後で仇になるとは知らなかったのである。


 コアルシオンの国境に足を踏み入れると、その瞬間に空気が変わる。カルディア王国とは違う、軍事国家特有の硬質な空気。

「レオポルト王弟殿下、お待ちしておりました。」

重々しい使節団の出迎え。今から始まる外交の重さを思い起こさせる。

「出迎え、感謝する。まずは王に挨拶させていただきたい。」

案内と共に入城すれば鳴るファンファーレに敵意、好意の入り混じった視線で見物する市民、今回の目的を考えれば仕方なのないことだがこれでは見事な見せ物だ。

「予想はしていましたが.....これは中々ですね。」

「諦めろ。今回はこれが目的だ。」

中に入ると謁見の間にて王が座していた。

「レオポルト王弟殿下、よく我が国に来られた。歓迎するぞ。こちらはほんの気持ちだが、受け取ってくれ。」

....この国の王には何度か会ったことがある。だが以前はこんな腑抜けた男ではなかったはずだ。レオの記憶にあるのは鋭い眼光、軍人の纏う威厳のある男だったのだが。

隣に控えている男が宰相だろう。薄気味悪い表情を浮かべる男が何を考えているのか。

これではアラリックの頭も痛むはずだ。

「厚い歓迎、心より感謝いたします。我が国からも僅かですが贈り物を用意いたしました。お納めください。」

「ほう、これは良い酒ではないか。これで一杯やるとしよう。今晩は歓迎の晩餐会がある。大いに楽しんでくれ。」

「お気遣い、痛み入ります。」

「旅の疲れもあるだろう。部屋にでゆっくり休まれよ。」

部屋に案内されると詰まっていた息を吐いた。

「はぁ.....何が起きてるんだこの国は」

「早めにアラリック王子と話したいところですが.....」

「あまり早くに話してあの宰相に勘繰られたくない。どうもあれは曲者だ。」

「数日は大人しくしているしかないでしょうね....」

「ああ、あの王の様子だと宰相派とアラリック派で二分していると言っていい状態だろう。」

「私もあの王がこれ程変わられているとは思いませんでした。」

「頼りになる男だったんだがな。女に溺れたというのは本当だったか。」

「貴方様も溺れているんですが、何が違うんでしょうね。」

「女の差だな。」

「....否定できません。王は晩餐会にその側妃を連れてくるおつもりでしょうか。」

「今ならやりかねんぞ。本来なら正妃だが病に臥せっている。その次となればオルネッタ妃のはずだが.....」

「なんでも溺れているのは舞姫出身の女だとか。」

「正に傾国の女だな。晩餐会にアラリックが出るかだな....」

「微妙なところですね。王太子であるエスペラントは芸術ばかりで政には向かないとか。」

「そう考えるとアラリックが出てくるのが妥当なんだがあの宰相のことを考えるとな.....まあいい。どうせ今日の晩餐会で個人的な話もできん。とりあえず様子見だ。」

 

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