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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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誰かを好きになるということ。

誰かを好きになるということ

「セラ様、お手を。」

オルヴェインは至れり尽くせりだった。手を取り馬車に乗せ、休みの時には辛くないかと毛布を差し出してくれる。

「オルヴェイン様、そこまでしていただかなくて結構ですわ。楽にしてください。」

「なりません。私がセラ様に快適に過ごしていただきたいのです。必ずお守りします。ご安心ください。」

 一点の、曇りもない言葉。もし私がレオを知らなければただの親切な人だと思えただろう。だけど、この人の言葉と目はただの親切でないことを明確に示している。

(これ本当にレオ様がいなかったらまずかったわ....揺れてるところだった。)

「セラ様、少し火に当たられますか?採れた肉も焼けています。」

「ではいただきます。」

 肉を、あの時もこうやって並んで食べた。レオの、年相応な笑顔を初めて見た気がした時。

「ご気分が優れませんか?肉はあまりお好きではない?」

「い、いえ。そんなことはありませんわ。肉も美味しいのです。少し、過去を思い出してしまいました。」

「...…誰か、想う方がいらっしゃるのですか?」

 どう答えるべきか迷った。いないと言えば嘘になる。だけどいると言えばこの人を傷つけてしまうんじゃないだろうか。

 そう思った時に気づいた。誰かを好きになることを傷なしでは成り立たないのだと。オルヴェイン様は優しい方だ。もしかして、運命が違い、私が先にこの方に会っていたら惹かれていたかもしれない。でも、運命は違う。私はレオ様に会って、彼に恋をした。そしてそれは何かに変えられてしまうような小さなものでもなくなっていた。

「……そうですね。ある人の笑顔を、思い出していました。」

「……家族ですか?」

「……いいえ。違う、私にとって特別な方です。」

 オルヴェインの幼い顔が一瞬震えた。それを見ると、セラの胸も痛んだ。

「……そうですか。貴女に想われるなんて幸せな人だ。」

「私は、そんなに出来た人はありませんわ。」

「いいえ。貴女は強い人だ。あのような場で、あの音を鳴らせる強さを持つ者はいない。身体に痛みを抱えながら、顔色ひとつ変えず踊りきれる者も。私は、貴女の強さを美しいと思ったのです。」

「……ありがとうございます。正直、とても緊張していました。ファーストダンスの相手がオルヴェイン様でよかったと思っていたのです。」

「そう思っていただけたのなら光栄です。もう近いですが、最後まで、貴女を守ります。」

「ありがとうございます。」

 馬車に戻ろうとする背を、イザークが呼び止めた。

「オルヴェイン殿も、悪くはないと思うけどね。」

「イザーク様..…聞いてらしたのですか?」

「ちょっとね。でもセラが誰かを拒否してまで想うなんてすごいことだ。」

「私は……分かっていませんでした。誰かを好きになるという意味を。」

「そうだね。セラは、自分を女として見たことがなかっただろう?これからきっと、オルヴェイン殿以外にも現れる。耐えられそうかい?」

「耐えねば……ならないのです。私は、1人の人を選びました。」

「うん。応援しているよ。さ、冷えるから馬車に乗りな。」

「ありがとうございます、イザーク様。」

 『連絡がこない』

 大丈夫、必ず迎えに行くから――――

 


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