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王弟が愛した娘 —音に響く運命—  作者:


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王と相対し、真実が動き出す。

王と相対し、真実が動き出す

「セラ様、起きられますか?」

いつもの硬い声とは違う、幾分柔らかい声で呼びかけるのはアシュレイだろう。

瞼が重い。身体も、全てが起きたくないと訴えてくる。

(王と....謁見か.....)

王である前にレオの兄だ。セラだって会ってみたくないわけじゃない。

重力の強さに抗いながら一呼吸吐くと身を起こした。

「セラ様....やはり王に事情をお伝えして謁見の日を伸ばしてもらえぬか聞いてみた方がよいのでは....」

「それはダメよ。コアルシオンとの緊張状態が続いている中で、これ以上当主とその息子が辺境を離れるわけにはいかないわ。」

「....分かっております。」

アシュレイは優しい。本人は厳しいつもりでいるのだろうが人の根はそう変えられるものではない。

「身支度を。」

告げると侍女たちが身支度を整え始める。王との謁見に恥ずかしくないようにせねばならない。

「髪は下ろしておいた方がいいかしら?」

「ハーフアップにしましょう。それなら品があるわ。」

身支度を終えた頃、エルシウスが戸を叩く。

「支度はできているな。行くぞ。」

無言のまま廊下を進み、王の間の近くまで来た時、品の良い男が恭しく礼をしていた。

「ここからは私がご案内いたします。辺境伯はお戻りを。」

「ああ。任せる。」

「セラフィーネ様ですね。王がお待ちです。」

レオと王の話をしたことは殆どない。ただ、王になるに相応しい人物だったということだけだ。一体どんな方なのか――――

荘厳なドアが開く。上の王座に鎮座した人物こそがこの国の王、アーノルト。その姿はレオとよく似た顔立ちにも関わらず、威厳に溢れている。レオが動ならこちらは静といったところか。

「入れ。」

「セラフィーネ・ベルシュタイン。お呼びと聞き参じました。御用件は――――」

「よい。そう硬くなるな。お前は未来の義妹だろう?」

義妹。そう言われて思わず顔が上がってしまった。

「昨日は随分澄ました顔をしていたがそのような顔も出来るのではないか。傷はどうだ?崖から落ちたと聞いた時は流石に肝が冷えたわ。」

ニヤリと笑う顔はあまりにもそっくりだ。

「背中の方も傷は塞がり、歩いたり日常生活には問題ありません。お気遣い、痛み入ります。」

「だがダンスは問題あったのではないか?エルシウスも鬼よのう。」

なるほど、確かに鋭い。それもレオとはまた違った。

「私は拾われた身です。与えられた義務は果たさなければなりません。」

「なるほど。確かに強い。おまけにあのハープ....あれは中々良かったぞ。いい反骨心を感じた。」

「バレていましたか。」

「音楽家として正しい反抗のやり方だ。悪くない。弟の色恋話を聞くのは楽しくてな。どうしても一度会ってみたいと思っていたんだが.....」

アーノルトの眉間に、僅かに皺が寄った。

「何か、あったのでしょうか?」

「その弟から連絡が一切ない。コアルシオン入りをしたとの旨はあったがそれ以降パタリとな。それからアイルデール卿については何か聞いているか?」

連絡がない。それが示す意の可能性はいくつかある。そのどれもが良い意味ではないが。

「アイルデール卿....娘はレ....王弟殿下に媚薬を飲ませ、恐らく賊の手引き、麻薬の流通、私を狙ったのもその男かと。」

「レオでいいぞ。俺しかおらん。そう。それだけのことをしておきながら証拠を残しておらん。」

「数年前に爆発事故が起きてから表にも出て来ていないとか....。家には証拠があるのでしょうか。」

「可能性としては高い。だがこれで乗り込み何も出てこなければ王家が非難を浴びる。」

「アイルデール卿1人でこれだけのことが起こせるとは思いません。特に麻薬の件.....あれはコアルシオン側にも協力者がいたはずです。」

「そうだろうな。だが目的がはっきりせんのだ。コアルシオンとの戦を望むなら賊もお前を狙うのも不要のはずだ。最もお前を殺すことによって弟を壊し、俺と戦わせようというなら話は別だが。」

「そこは私も考えていました。最初、敵はレオ様を利用して戦を起こすつもりだったように思うのです。今もかもしれませんが。恐らく宰相の目的はそれでしょう。ですがそれなら私を殺すはずです。ということはアイルデールは別に目的があるということ。」

「しかしだとしたらその目的はなんだ?」

「それが.....まだなんとも。娘、グラテシア様にお話を聞くことは出来ないでしょうか。パーティーの時の様子も普通ではなく、何か知っている可能性があります。」

「ふむ....価値はあるだろうな。妻に呼ばせよう。」

「お妃様は...」

「人見知りでな。あまり外に出たがらん。」

「そうなのですか。アイルデール卿は....その、あまりよくない噂があると聞きました。」

「ああ、動物などを弄ぶとかなんとかだろう。しかしな、それも妙な話なのだ。」

「といいますと?」

「10年以上前、俺はアイルデール家に会っている。その時妻は健在でグラテシアは赤子だった。酷く仲睦まじい家族に見えたものだ。当時はそんな噂も聞かなかった。妻がいなくなってからだ。」

「奥様と言えば理由不明で10年前からお姿を現されていないのですよね?」

「ああ。既に死んでいるとの噂もある。」

ふと、ベルシュタイン家の書庫で読んでいた本を思い出した。

あれには確か――――

「王よ。奥様がグラテシア様をお呼びになる時、地下から物音はするか、もしくは何かあるのかをお聞きください。」

「地下か?」

「はい、それから人が屋敷からいなくなることがないかを。」

「......何を気にしている?」

「確証がなく、憶測に過ぎないため申し上げられません。ですがその2つの答えによっては確実に屋敷の中に証拠があることになります。」

「.....ふむ。いいだろう。俺からも頼み事だ。」

「なんでしょうか。」

「弟の件なんだが、どうも嫌な予感がしていてな。コアルシオンに潜り込んでみてくれんか。」

「潜り込む....ですか。」

「うむ。敵兵にでも紛れることくらい出来よう。お前にこんなことをさせたとなれば弟には恨まれかねんが国の未来のためだ。エルシウスには話をつけておこう。」

「私を、信用されるのですか。」

「コアルシオンに送った間者も戻って来ぬ。現状、動けて機転の効く者でお前以上の適役はおらぬであろう。」

「....分かりました。私も、このままでは気になって眠れません。」

「よし。ではそろそろ戻れ。病人を苦しませる趣味はないのでな。あと護衛にはオルヴェインを付ける。あれなら心配なかろう。」

「オルヴェイン様ですか?」

 しまった。つい声が大きくなってしまった。

「なんだ、問題か?」

「あ、いえ....王の近衛隊長と聞いていたのでそのような方が私の護衛に使われてもよいのかと。」

「構わぬ。今お前に万が一があってはいかん。」

「勿体無いお気遣い、感謝いたします。」

「うむ、無理はするなよ。」

「はい。では失礼します。」

 いけない。つい動揺してしまった。

 『美しい』

 真っ直ぐに、言われた言葉。お世辞だと思ったけれど、私はあの真っ直ぐな言葉に響く音を知っている。

「はぁ.....」

 揺れるつもりなど毛頭ない。

 『お前が自分の価値と美しさを知る時が来る。それでもお前に俺を選んで欲しいんだ。』

 言われた意味が、少しだけ分かってしまった。

 私は、男というものを知らなすぎたのだ。

 自分が、女であることも。

 それでも。

 (私が選ぶのは貴方だけ。)

 決意を固めて歩く廊下で得た情報、思いついた情報を整理してみる。

レオ様からの連絡がない。私がベルシュタイン家に到着して9日目。到着後一回のみということは私を降ろして2日後ぐらいにコアルシオンに入ったのだろう。ということは何かあったのはこの7日の間。あまりに忙しくて連絡できないなんてことはないはずだ。王への連絡は最重要事項。それを彼が怠るとは思えない。つまりあり得る可能性としては

脅され、連絡が取れない。

物理的に連絡が取れない場所にいる。

麻薬を吸わされた。

この辺りだろうか。正直どれであっても嬉しくない。

アイルデール卿について思いついたこと。それはベルシュタイン家でちらりと目にした錬金術の古文書だ。

古代文字で読むのが困難だったが、絵にあったのは葉、宝石、蘇り狐だった。もし、仮にだ。この3種で人を蘇らせることが出来るなら......

『あんたのその目の色、不吉だわ。よりによって私の娘に出るなんて。あのキツネが寄ってこないようにしなくちゃ。』

いつか母が言った。

もしアイルデール卿がそのことを知っていたのなら私を狙うのも納得がいく。その上でレオを操れるなら一石二鳥だろう。

つまり。

恐らくまた狙われる。これならば確かにコアルシオンに潜入している方が安全かもしれない。

帰りの馬車に揺られながら、痛む身体を他所に遠い国境に目を向けた。

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