痛みの中の、小さな甘さ
痛みの中の、小さな甘さ
「舞踏会の日程が決まった。5日後だ。明後日にはここを立ち、王宮へ向かう。」
「承知しました。」
未だ歩くたびその存在を主張してくる肋骨にダンスをした時のことなど考えたくもない。
そんなことを言っているわけにもいかず、今日はダンスの練習も午後には行うことになっていた。
ホールへ向かうと、既にイザークが待っている。
「イザーク様、お待たせいたしました。」
「構わない。セラとは踊ったことはないな。いつも馬で駆けてばかりだったから。」
「そうでしたね。つい剣や狩ばかりでした。」
「たまには悪くない。当日も踊ってもらうつもりだしな。」
イザーク様はあまり話されないように見えて口数が多い。初めはその印象差に驚いたものだ。
「さて、やってみよう。」
イザーク様の手が腰を支え、ダンスのリズムに合わせて動き出す。ダンスは得意だった。動き自体はすぐに思い出したのだが――――
「セラ、大丈夫か!?顔が真っ青だ。」
「ダンス自体は、問題ないでしょうか?」
「ああ、全くないどころか非常にいい出来だ。」
「そらなら....はぁ....よいのです。」
「痛むだろう。肋骨だ。」
「思ったよりきました。日も決まっている以上、やるしかないのですがしばらく休ませていただけるでしょうか。」
「ああ、そうした方がいい。アシュレイ、頼むぞ。」
「分かりました。医者を呼びますか?」
「それ程ではないわ。横になれば直ぐに落ち着くはずよ。」
言葉通り、横になると痛みがじわじわと引いていく。この痛みと戦わねばならない5日後を思うと地獄だった。
「エルシウス様に延期できないか聞いてみましょうか.....」
「そうですわね。これはあんまりですわ.....」
「ダメよ。エルシウス様はこれくらいで変えるような方ではないわ。私はこの家に使える駒としているのよ。働けなければ、ここにはいられないわ。」
「セラ様......」
よい、侍女たちだ。たった数日の主人にこれ程親身になってくれている。もっともこれがまた演技で裏切りだったら笑えないのだけれど。
「大丈夫。本番はちゃんとするわ。その代わりこの何日かだけ安静にさせてくれる?」
「勿論です。作法は殆ど問題なく出来ています。晩餐会でもないので余程のことがなければ粗は出ないでしょう。」
「ミルクセーキ、もう一度お飲みになりますか?」
「貰ってもいいかしら?あ......」
「何でしょう、セラ様。」
「あ、いえ、その.....何か甘味のようなものがあれば嬉しいのだけど.....」
「甘味ですか!マジパンやタルトぐらいなら用意出来そうですよ!」
「エルシウス様もイザーク様もあまり召し上がらないものねえ」
「直ぐに用意して参ります!」
「あ......」
お礼を言うまもなくアイルは言ってしまった。
「お好きなのですか?あまり食欲は少ないようですが....」
「レ....王弟殿下が甘味をよく下さったのだけど、それが美味しくてハマってしまって。」
「まあ、王族の方ならゲルプナーシュなんかかしら?」
「それもあったわ。」
「夢のお菓子ですものね....!タルトやマジパンで良いのですか?」
「十分すぎる贅沢だわ。ありがとう。」
「ありました!マジパンとタルト、持って来ましたよ〜!」
「まあ、美味しそう!一緒に食べない?」
「セラ様、それは.....」
「いいじゃない、誰も見てないわ。」
「.....仕方ありませんね。」
1人で食べる菓子は寂しいかと思った。でも4人で食べる菓子は思ったより寂しくなかった。




