人の弱さと許しを得る強さ
人の弱さと許しを得る強さ
「で、話とは?」
「俺がいない間だったんだがな。ベルシュタイン家に行っていた。」
「...そうではないかと思っていました。」
軍の残り方からして行ったのはコアルシオンや王宮ではなさそうだった。
「お前の火の件は無罪、婚約も条件が揃えば受け入れてくれるそうだ。」
「条件ですか?」
「ああ。俺が王家として出した内容は3つ。これは問題ない。気になったのは1つ目にお前の帰還を祝った舞踏会を王宮で開きたいと言うこと、2つ目が俺がコアルシオンで全ての問題を解決し、コアルシオンの交易権を得るというところだ。」
まるでレオを試しているかのような内容だ。正直ベルシュタイン家が火の件を気にしないなら王家との婚姻を結ぶ方が有利な気もするが...
「1つ目の目的は何となくわかりますが2つ目が少し解せませんね。」
「ああ....とにかく万事うまくいけば結婚はできると言うことだ。だが....この離宮にはこれ以上滞在できない。」
「承知しております。私はベルシュタイン家に行くのでしょうか?」
「....察しの通りだ。お前の治療はベルシュタイン家で続けてもらう。俺とはしばらく離れることになるが.....」
「仕方ありません。王家の恥と言われぬようそれなりな令嬢になっておきます。」
寂しくない。そう言ったら嘘になる。でも永遠に離れようとしていたのだ。それに比べたら些細な期間だと思いたい。
「お前は本当に....頼もしすぎるな。あ.....」
「どうされました?」
「.....お前を、裏切った侍女が離宮に戻ってきた。何のつもりかは分からんがとりあえず牢に入れてある。」
「エティが?」
「ああ...顔を見ると首を飛ばしてしまいそうだったから俺なりの最善の措置だ。この件に関してはお前の判断に委ねる。」
「よいのですか?」
「.....お前の侍女だ。俺が勝手に首を切ればお前は泣くんだろう。」
きっと、怒りたくて堪らないのを我慢してくれたのだ。セラがレオが泣いていると気になってしまうように、レオもセラが泣くと困るんだろう。
「...ありがとうございます。この部屋に連れて来てもらえますか?」
「ああ。ただし俺は残るぞ。少しでも不審な動きをすれば切る。」
「仕方ないですね。」
しばらくして連れて来られたエティは酷くやつれていた。部屋に入り、セラの顔を見るや否や泣き出して額をつけて謝る姿は、見ていて痛々しくなる。
「申し訳ありませんでした、セラ様.....私のせいでこのような大怪我まで.....いかなる処罰も覚悟しております。」
「....エティはアイルデール卿に何を言われてここに来たの?」
「.....王弟の寵愛する楽師を連れて来れたら母のための薬をやると言われました。話を聞いた以上、受けなければ屋敷から追い出すとも。」
アイルデール卿というのは噂通りのロクでなしのようだ。
「....ならば戻れば薬を貰えたでしょう?何故戻って来たの?」
「....セラ様の姿が消えた時、酷く後悔しました。連れられてアイルデール様のお屋敷に戻りましたが、ご主人様はセラ様は逃げ出し、連れて来れたわけではないため薬はやれない、ここにも置けないと追い出されました。ですが元々薬だけ家族のもとに置きここに戻って処罰を受けようと思っていたのです。」
「.....家族のために働いていたんでしょう。ここに戻る必要はなかったわ。」
「それでは私は生きることを許せませんでした。セラ様は私に優しく、妹のように扱ってくださったのです。初め懸命にしていた演技はいつしか演技ではなくなっていました。私の主はセラ様です。ですから私の行いに裁きを与えるのはセラ様でよいのです。セラ様に罰を受ければ私は家族に詫びて、納得して死ぬことができます。」
人は、弱い。綺麗事をどれだけ言おうと弱い部分を見られれば付け込まれる。そしてそれが真面目で、純粋であればあるほどに。
「.....レオ様、私の判断で良いのですよね?」
「.......不本意だがな。」
「私、エティに結ってもらう髪が好きだったのよ。また、結ってくれるかしら?」
「そんな........セラ様、何を仰るのですか.....」
「裏切った者のところへ戻ってくるのは勇気のいることよ。ここに来るまで、苦しんだでしょう?私は生きてる。もう十分よ。もし、私ともう一度いてくれるなら嬉しいわ。」
エティがレオの方を見た。レオは言いたいことがあると書いた顔を飲み込むために百面相をしている。
「............せめて何かないのか」
「来てから牢に入れられていたのでしょう?こんなにやつれて....早くご飯を食べさせてあげなくちゃ。」
「......任せると言ったのは俺だ。お前が納得するなら俺はこれ以上何も言えん。ただし。」
「はい。」
「次、裏切れば俺はセラが何と言おうと容赦はしない。覚えておけ。」
「は、はい!もちろんです!」
まだ納得できないレオは盛大なため息を吐いて部屋を出て行った。
「セラ様....本当に、よいのですか?私がお側にいても....」
「私人見知りなのよ。エティと話すのは楽しかったわ。だから余計信じたくなくて油断したのよ。エティはもう裏切らないでしょう?」
「それは勿論、この身に変えても....!」
「家族のことも、一緒に考えましょう。ただねえ....」
「どうかされたのですか?」
「この離宮は1週間以内には出ないといけないんだけど」
「殿下がコアルシオンへ向かわれるとか....セラ様は休養中なので本邸の方へ戻られるのですか?」
「そうね....エティには話しておいた方がいいわね。私は本邸では侍女をしていたし本邸には戻れないのよ。」
「ええ、そうなのですか?」
「そう。探していた弟というのも見つかっているそうなのだけどね。私自身はベルシュタイン家の養子なのよ。」
「え.....え、ええ!?」
「しーっ!驚くのも無理はないけど色々あってね。今回殿下がコアルシオンに行かれる間私はベルシュタイン家に戻ることになってるの。」
「そ、そうなのですね.....ただの楽師様にしては異常に品と教養があると思っておりました....」
エティが驚くのも無理はない。アイルデールに騙され、出自の面倒な女に使えるハメになり、最早気の毒な気すらしてきた。
「まあ、普通に村娘をしていた期間も長いからちょっと混ざっちゃってるんだけど。」
「エティと一緒にベルシュタイン家に入れそうか、殿下には確認しておくわ。恐らくエルシウス様....当主の判断にはなるでしょうけど。」
「わ、分かりました。ベルシュタイン辺境伯がお許しにならなければ....」
「殿下と行ってもらうしかないわね....しばしの別れになるわ。寂しいけど。」
不安だ。レオはエティを憎んではいまいが思うところは大アリな状態だ。しっかりと言っておかねばならないだろう。




